奥山の しきみが花の 名の如や しくしく君に 恋ひ渡りなむ 大原今城
シキミと聞いて皆さんはどんなイメージを持たれるでしょう? お葬式とか縁起が悪いとか、暗い印象があるかもしれません。
地域によっては「しきび」とも呼ばれており、私の周りもそうでした。最近は見かけることが少なくなりましたが、かつての葬式では白布に巻かれたシキミが何本も立ち並んでいたものです。ただ、実際に生えているシキミの木や、咲いている花を見る機会はあまり多くはありません。
シキミはマツブサ科の木で、比較的暖かい地方の野山に生えます。また墓地や寺院などにもよく植えられていて、今ぐらいの時期から薄黄色の花が咲き始めます。10枚余りの花びらは細長く1㌢余りで、少しねじれ、枝や葉には強いにおいがあるのが特徴です。それを悪臭と感じるか、芳香と感じるかは人それぞれでしょうが、いずれにしても独特なものであることにかわりありません。
その昔、人が亡くなると、今のような保存技術がなかったので、埋葬までの間、死臭を紛らわせるためにこの木を用いました。土葬の際にはきついにおいのするこの木を一緒に埋めて、犬などの獣に掘り起こされないようにしたということです。
万葉集では、シキミを歌った歌は大原今城が作った次の1首しかありません。
「奥山の しきみが花の 名の如や しくしく君に 恋ひ渡りなむ」
奥山に生えるシキミの名前のように、これからもずっとあなたのことを思い続けるのだろうかというような意味でしょうか。風土記の丘では、万葉植物園の入り口を少し過ぎた左側に7本植えられています。(和歌山県立紀伊風土記の丘非常勤職員、松下太)
(ニュース和歌山/2020年2月15日更新)