春の野に 菫摘みにと 来し吾ぞ 野をなつかしみ 一夜寝にける  山部赤人

 春の花と言って思い浮かべるのは、レンゲ、タンポポ、スミレなどではないでしょうか。このうちで万葉集に歌われているのはスミレです。ただ、一口にスミレといってもたくさんの種類があります。「スミレ」という名前の花もありますが、そのほかはそれぞれ「○○スミレ」という名前が付けられています。

 家の周りや街中には、花の色が濃い紫色のスミレ類がよく生えていますが、風土記の丘を歩いていて一番よく目にするのは、それより色の薄いタチツボスミレでしょう。ハート型の葉が特徴的です。また花が白く小さくて、葉脈が白っぽいフモトスミレも特徴が分かりやすいです。

 たくさん種類がある中で、いくつかお好みの名前を覚えておけば、散歩がより一層楽しい時間になると思います。

 万葉集には、山部赤人のこんな歌があります。

 「春の野に 菫摘みにと 来し吾ぞ 野をなつかしみ 一夜寝にける」

 春の野に、スミレを摘みに来ただけなのに、野の美しさに心をひかれ、見とれているうちに、ついつい夜を明かしてしまったよという意味です。スミレが咲く季節に野宿をするというのは今の時代ではなかなか想像しづらいでしょうが、それほどまでに春の野の美しさに感動したということですね。 (和歌山県立紀伊風土記の丘、松下太)

(ニュース和歌山/2020年4月18日更新)