忘れ草 垣もしみみに 植えたれど 醜の醜草 なほ恋ひにけり 作者未詳
夏が始まるころ、野山では燃えるようなオレンジ色の花が咲き始めます。ヤブカンゾウです。風土記の丘では、万葉植物園をはじめ、広範囲にポツポツと見ることができます。
草丈1㍍ほどの多年草で、八重咲きのユリのような花は、花びらがうねるように重なり合っています。夏に花茎の上部に数個のつぼみがつきます。
よく似た花にノカンゾウがありますが、こちらは一重咲きで、花の季節も違います。風土記の丘では、6月ごろにトウカンゾウが咲き、次いでこのヤブカンゾウ、そして夏の終わりにはノカンゾウが花開きます。これまでユリ科に分類されていましたが、今ではツルボラン科という新しい科に区分されるようになりました。昔、これらの花は「忘れ草」と呼ばれていました。この花を眺めていると世の中の嫌なことを忘れていられるという中国の故事によるものだそうです。
それでは暑い季節に、もっと熱くなるような恋の歌を紹介します。
「忘れ草 垣もしみみに 植えたれど 醜の醜草 なほ恋ひにけり」
これは、「あなたを忘れようとして、忘れ草を垣根の中いっぱいに植えたのに、なんてバカな草なの、忘れるどころか、余計に好きになってしまったじゃないのよ!」と嘆きつつ、どうしても好きな人のことが頭から離れず、抑えることのできない熱い恋心を歌っているのでしょう。そう言われてみれば、ヤブカンゾウの花びらのうねり具合は、燃えたぎる恋心のようにも見えてきますね。 (和歌山県立紀伊風土記の丘、松下太)
写真=うねるように重なり合った鮮やかな花びらは、夏の野山で一際目をひきます
(ニュース和歌山/2020年7月18日更新)