吾がやどの 穂蓼古幹(ほたでふるから) 摘み生(おほ)し 実になるまでに 君をし待たむ 作者未詳
「蓼(タデ)食う虫も好きずき」と言いますが、これは「タデのような辛い草を好んで食べる虫もいるように、人にもいろいろな好みがあるのだ」との意味のことわざです。ただ、タデの中には、辛くないものもあります。
〝タデ〟という名前の植物はなく、みんな「〇〇タデ」という名前が付いています。野外で最もよく見かけるのはイヌタデで、低く生え広がっており、分かりにくいですが、粒々の赤い花が咲きます。「イヌ」は動物の犬のことではなく、「役に立たない」との意味で、辛味がなく、食べてもおいしくないことを表しています。
紀伊風土記の丘にある万葉植物園では、シロバナサクラタデが見られます。タデにしては大きめの白い花びらが特徴です。大池の西岸に群生があるのですが、残念ながら通路からは見えません。
水生植物の鉢の中にはボントクタデも生えています。ボントクとは「ぼやっとしている」との意味で、イヌタデと同じく辛くなく、食べてもおいしくないタデです。食用にするのはヤナギタデという種類で、芽は刺身のつまにしたり、あゆ料理の薬味になったり重宝されているそうです。
万葉集にはタデを詠んだこんな歌があります。
「吾がやどの 穂蓼古幹 摘み生し 実になるまでに 君をし待たむ」
私の家に生えているタデの古い穂から取った種を植えて、それに実ができるくらい長い間、ずっとあなただけをお待ちしましょう。万葉人は植物の成長に重ね合わせて、時の流れを感じ取っていたのでしょうね。 (県立紀伊風土記の丘、松下太)
写真=シロバナサクラタデは花穂が細く、きゃしゃな白い花を咲かせる
(ニュース和歌山/2020年9月19日更新)