6月13日、小惑星探査機「はやぶさ」が地球へ帰還した。地球外の星からのサンプル持ち帰りを試みたのは月の石以来初めてのことで、日本中がその帰還に沸いた。当日、和歌山大学の尾久土正己教授らは落下点のオーストラリアから、インターネットで様子を中継した。(2010年9月8日号より)

機体を燃やしながら帰還するはやぶさ

 はやぶさは、2003年5月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小惑星探査機。05年に地球から約3億2000万㌔離れた小惑星イトカワに到着し、観測や惑星の表面物質の採取などを行い、数々のトラブルを乗り越えながら、10年6月13日、オーストラリアのウーメラ砂漠上にカプセルを落下させ、役目を終えた。
 この様子をインターネット中継したのが和大観光学部の尾久土教授(53)ら3人の和大撮影チームだ。10年4月、和大に宇宙教育研究所が立ち上がり、開所式に訪れたJAXA関係者から「テレビで生中継の予定はない」と聞いたのがきっかけ。サッカーワールドカップの期間中だった上、時間通りに目標地点に落下する確証はないからだ。尾久土教授らは1ヵ月ほどで準備し、現地へ。JAXAから落下のスケジュール詳細が直前まで明かされない中、カメラ位置や動画中継のための通信環境を整え、その時を待った。

63万人が感動

現地で中継準備に取り組む尾久土教授(手前)

 日本時間午後10時50分ごろ、西の夜空を明るく照らし、はやぶさが機体を燃やしながら出現した。尾久土教授は「自分の影が見えるくらい明るくなり、華々しく散ってカプセルを届ける姿に感慨深いものがありました」、同行した吉住千亜紀特任助教(46)は「『やった、おかえり!』と興奮しました。後にJAXAでカプセルを見たときはうるっときましたね」と振り返る。
 中継はリアルタイムで63万人が視聴、ネット上では「宇宙につながった気がした」「和大、感動をありがとう!」と、はやぶさ帰還とともに称賛のコメントがあふれた。
 同研究所の秋山演亮(ひろあき)所長(45)ははやぶさ制作のプロジェクトにかかわった一人。計画が立ち上がった1996年、イトカワの科学観測を行うカメラ「AMICA」の開発に参加した。「イトカワはクレーターがあると思われていたのに実際はなく、表面は石だらけで、全体はかなりいびつな形をしていたことなど写真で色々判明しました。無事カプセルが帰還してよかった」と目を細める。

全国でフィーバー

 帰還後は日本中で「はやぶさフィーバー」が起こった。はやぶさを題材にした映画は3本も公開。帰還カプセルの実物やパネル展などが全国で開かれた。
 和歌山では翌年1月15〜18日、和歌山市本町のフォルテワジマで、はやぶさに搭載した電子機器やカプセル本体など実物4点を展示し、4日間で1万5000人以上が押し寄せた(写真上)。
 特にJAXAのはやぶさプロジェクトマネジャー、川口淳一郎さんを迎えた講演会は整理券を待つ人がオープン前から列をなした。主催した島精機製作所の藤田紀(おさむ)総務人事部長(64)は「徹夜組も出たほどでした。講演会は人が入りきらずに別のフロアで講演の映像を流して対応しました」。島精機では高さ20㌢、幅40㌢、重さ17㌔のカプセルのレプリカを製作。子どもたちがその姿に直接ふれ、宇宙への夢をふくらませた。
 感動から4年、11月30日には種子島で「はやぶさ2」が打ち上げられる。ふたたび「おかえり」の声があふれるのは6年後の予定だ。

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ニュース和歌山2014年11月22日号掲載