新婚旅行のため仕事を辞め、自転車での世界一周に挑む夫婦がいる。和歌山市の辻陽平さん(31)と夕佳さん(30)。学生時代に日本や世界各地を自転車で旅した陽平さんが、世界一周の夢を追い始めた。3月にラスベガスから出発し、現在はカナダに向け走行中。陽平さんは石けんを通じた世界の衛生事情、夕佳さんは食文化をテーマに決め、2年かけて、世界を全身で吸収する意気込みだ。
2年計画 衛生事情の研究も
大学時代、和歌山から徳島、九州へと自転車で走り、タイとカンボジアの横断、オーストラリアの縦断を達成した陽平さん。化学メーカーに就職後も休暇に北海道や石川へ出かけた。陽平さんは
「徒歩は機動力に欠け、バスは目的地が限られて小さな発見を見落とす。自転車は好きなときに好きな場所へ自力で行ける」。知らない土地を訪ねたいとの気持ちが高まり、世界一周を志すようになった。
職場の同期だった2人は6年前に出会った。デートは自転車での店巡りや趣味で始めたトレッキング。琵琶湖や淡路島の一周に挑戦し、夕佳さんはアウトドアの世界に引き込まれていった。
結婚を決めた2人が新婚旅行に選んだのが世界一周。そのためには仕事を辞めねばならず、陽平さんは夢を追い続けるか生活を維持するか悩んだが、夕佳さんの共感が気持ちを固めた。
決断から5年。陽平さんは、両親から「仕事を辞めてまで行く必要があるのか」「身の危険にさらされたらどうする」と何度も反対され、そのたびに「行かないと人生に悔いが残る」と説得を繰り返した。父の隆士さんは「自分で選んだ道なので得るものも大きいはず。とにかく無事に帰ってきてほしい」と願う。
2人は今年3月に成田を発ち、アメリカ大陸へ。一日に進む距離は約70キロ。宿泊は街のホテルか持参するテントで、時には旅先で出会った人の家に泊めてもらう。世界遺産のグランドキャニオンなどを訪れ、「アメリカは人も自然も雄大。見習うことが多い」と夕佳さん。猟師の家に数日滞在し、シカを丸ごと一頭さばく体験もした。陽平さんは「人とのふれあいが醍醐味(だいごみ)。全てが得るものばかり」。
2人には旅にそれぞれテーマがある。陽平さんは大学時代に薬剤を研究した経験から、石けんを通じた世界の衛生事情を調査すること。「環境衛生は病気を予防し世界で多くの人を助けている。世界中の手洗い剤を調査し、国民性を把握して考察したい」。夕佳さんは食物科学の知識を生かし、世界の食材で調理を試みる。早速サボテンで料理をしてみたが「酸っぱくて青臭い味がするので調理法が難しい」と笑う。
今後は、6月にカナダ、7月にヨーロッパへ渡り、秋にはトルコを経てケニアへ。来年はアジア各国を巡り、再来年の1月にオーストラリアを訪れて帰国する。2人は「計画的に走ることが第1。ケニアではキリマンジャロ登山にも挑戦したい」と意気込んでいる。
旅の様子はブログ「フィールドテスト 世界一周」で随時更新。また、7月から本紙で連載を予定している。
写真このページ上から=自転車を含め40キロの荷物で走る、アンテロープキャニオンにて
(ニュース和歌山2014年5月31日号掲載)