◆消化器外科・大腸肛門外科
大腸肛門病専門医 日本外科学会専門医
福外科病院 福 昭人院長
Q. 65歳男性です。最近、足の付け根が腫れてきました。立ち上がったり、物を持ち上げたりしたときにポコッと出てきます。今のところ痛みはありません。そのままにしておいていいですか? もし治療が必要なら、薬で治せるでしょうか。
A. 症状から、「そけいヘルニア(脱腸)」と思われます。これは、乳幼児でない限り、自然治癒することはありません。
そけいヘルニアは、加齢とともに下腹部から足の付け根(そけい部)の筋肉組織が弱くなり、その部分からお腹を覆う腹膜が袋状に飛び出てくることで起こります。放置しておくと腫れが急に硬く痛くなり、指で押さえても戻らない「嵌頓(かんとん)」の状態になると、緊急手術になります。ご質問者様は、今は痛みがないとのことで、嵌頓ではないようですが、要注意です。
主流は痛み少ない 腹腔鏡手術
薬で治すことはできず、治療は手術となります。具体的には、腫れている部分を切開し、飛び出ている腹膜の根元を縫合し、開いた筋肉をポリプロリン製のメッシュ(医療用の布)で傷に緊張がかからないよう補強します。手術時間は約30分です。
最近では、「腹腔鏡下そけいヘルニア根治術」が主流となりつつあります。おへそと下腹部をそれぞれ1㎝切開して、腹腔鏡という内視鏡を入れ、おなかの中でヘルニアの部分を修復します。術後の痛みや違和感が少ないのが利点です。
切開術でも、腹腔鏡下そけいヘルニア根治術でも、現在は日帰り手術が原則ですが、
①陰のうまで腫れている方
②痛みに強くない方
③抗凝固剤を内服している方 ④高齢で一人暮らしの方
などは、2日間入院(手術の翌日に退院)が望ましいことがあります。
なかでも高齢者は、基礎疾患があることが多く、かかりつけ医と連携を取りながら、手術前に全身状態を診る必要があります。外科専門医にご相談ください。
(ニュース和歌山2015年7月25日号掲載)