1889年創業の粉吉(こうきち、和歌山市土佐町)は、もち粉などを扱う粉屋から出発し、現在はもちを主力に多彩な和菓子を手がける。父の日方通弘社長とともに切り盛りする5代目・日方新治郎さん(35)は老舗の味を守りつつ、新商品の開発にも余念がない。正月を前に、一年で最も慌ただしいシーズンを迎える。
初代からの教え
できたての味を届けるべく、毎朝午前2時ごろから工場の灯はともる。石臼(うす)に入れたもちを機械でつく間、つきっきりで手でひっくり返す。
「手間はかかるが、できるだけ機械を使わず、手で返します。その日の気候や湿度、秋にとれた新米は水分が多い、といったことにも細心の注意を払います。何年たっても難しく、奥深いですね」
和菓子をつくる父親の姿を見て育った。高校卒業後は日本菓子専門学校に進み、3年間、東京の和菓子店で修業。24歳で粉吉に入社した。商品の幅を広げようと開発した「三年坂かすてら」は自慢の品だ。
「『自分が買いたいと思えるものを作れ。良い材料を選べ』との初代からの教えを守り、とにかく自分が納得する商品にこだわります。かすてらにはコストがかかりますが、香りのよい県産のみかん蜂蜜を採用し、卵の白身、黄身を分けて泡立てる方法で、ふんわりした食感を実現しました」
時代に合わせた味
商品は土佐町でつくり、屋形町交差点にある直売所、ふく福団子と近鉄百貨店内の日方庵はじめ、和歌山市と近郊のスーパーへ。すべて保存料を使わず、あんは十勝産の小豆から丁寧につくる自家製で、世代を超えファンは多い。
「求められる味は時代によって変化があり、例えば今なら甘さはひかえめ、あんに対し生地は多めが好まれる。昔ながらの味を受け継ぎながらも、お客様の生の声を聞き、新しいアイデアを取り入れてレシピを改良しています」
120年以上続く看板を背負いつつ、若手職人が少ない和菓子の世界に危機感を覚えることもある。
「和菓子は行事や祝い事に欠かせないもので、特に和歌山はもちまきが盛ん。和歌山で灯をたやさず、職人の姿を子どもたちに見せることが必要と感じています」
ふく福団子…和歌山市岡山丁31。9時〜18時半。定休日はないが、1月1日〜8日休み。☎073・425・5168。
(ニュース和歌山2016年12月14日号掲載)