新鮮な地元野菜をふんだんに使った料理を提供する和歌山市畑屋敷千体仏丁の「野菜家さい」。野菜ソムリエの中西攻(おさむ)さん(40)は、スペイン料理と郷土の食文化を組み合わせ、四季を彩る野菜で次々とメニューを生み出す。「野菜を通じ食事を楽しむ文化を育みたい」。思い描くのは〝おいしい時間〟の共有だ。

個性生かし美しく

 元寿司店をリノベーションした店内。カウンターのショーケースには、サニーレタス、パプリカ、ソルトリーフと色とりどりの野菜が並ぶ。

 「何度も農家に足を運び、育った環境や、作り手の思いを確かめます。例えばトマトは、実のつく高さで日当たりが少しずつ違う。甘さや酸っぱさが異なると、調理法や味付けも変わる。細かな情報を伝えてくれるのは農家との信頼関係があるからこそです」

 紀州梅鶏のアヒージョ、野菜ソムリエのパエリアと、地元食材で作るスペイン料理が並ぶ。15種類以上の生野菜を盛るパフェは和歌浦産シラスがベースのソースを添える。

 「野菜ソムリエの知識から、効率良く体に吸収される調理法を選びます。見た目も、野菜の個性を生かし、洗練された美しさを目指します」

食事楽しむ文化を

 和歌浦出身。中学時代に母を病気で亡くし、料理を始めた。大学では民俗学や文化人類学を研究し、地域が育む食文化に関心を抱いた。卒業後は料理人を志し、福岡、東京、大阪の飲食店で腕を磨いた。

 「学生時代、和歌山の食文化を調べると、紀州人は江戸時代から甘辛い味を好んできたことが分かりました。しかし、健康面を考えて、コース料理ではソースの甘さをあえて抑え、野菜の甘みを引き立たせて糖分と塩分を控えています。地元の食文化を意識しつつ、現代のニーズに合わせた調理法を追究します」

 スペイン北部のバスク地方を旅した30代の時、休日になれば人々が集まって調理を楽しみ、レストランでは料理について熱心に質問する光景を目にした。その中心にあったのが野菜を多く使う現地の料理だった。

 「食卓を囲む大切な人との時間を大事にする姿勢が日本と全く違いました。日本ではせっかくの外食でも、テーブルを挟んで個々にスマートフォンを触る姿が見られます。野菜にこだわった料理で、食べることに興味を持ってほしい。それが、食事を楽しむ文化の拡大につながります」

写真=季節で変わるバーニャカウダ

 

 

野菜ソムリエの店「野菜家さい」
和歌山市畑屋敷千体仏丁15。ランチは11時30分〜14時、ディナーは18時〜23時(金土と祝前日は24時)。日祝休み(ランチは土も休み)。
☎073・499・5319。

(ニュース和歌山より。2017年4月12日更新)