風速(かざはや)の 美保の浦みの 白(しら)つつじ 見れどもさぶし 亡き人思へば 河辺宮人(かわべの みやひと)
新緑がまぶしいこの季節、初夏の日差しを浴びながら野山を歩くと、少しぐらいの悩みはどこかに飛んで行ってしまいそうな気分になります。
葉の緑と同じくらいに私たちの目を引くのは、一斉に咲き始めた色とりどりの花たちです。ツツジもその一つ。風土記の丘で多く自生するのはモチツツジ。花の付け根などが餅のようにねばねばするので、「餅つつじ」と名付けられました。たまに小さな虫がくっついていることがありますが、食虫植物ではありませんから、ねばねばするのはそれが目的ではないようです。
園内には他に色とりどりのクルメツツジ、ヒラドツツジも植えられています。ツツジには多くの園芸品種があり、庭木や盆栽などでおなじみのサツキもツツジの仲間です。
姿はかなり違いますが、ドウダンツツジも、また、これによく似た釣り鐘状の白い花を付けるネジキもツツジの仲間で、風土記の丘ではたくさん見られます。ネジキは幹がねじるようになっているので、樹皮を見ると分かります。それで「捻木(ねじき)」という名前です。
さて、万葉集には河辺宮人のツツジを詠ったこんな歌があります。
「風速の 美保の浦みの 白つつじ 見れどもさぶし 亡き人思へば」
風が激しく吹く美保の浦の白ツツジを見ても、ちっとも楽しくない。亡くなった人を思ってしまうので…との意味です。かつて二人で眺めたのでしょうか、それともその人をきれいな白いツツジに重ね合わせているのでしょうか。悲しく寂しい思いが伝わってくる歌ですね。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)
(ニュース和歌山/2021年4月17日更新)