大日山35号墳は、特別史跡岩橋千塚古墳群の西側、大日山の山頂に位置する6世紀前半の古墳です。

 墳丘は基壇と呼ばれる盾形の平坦面の上に、造出と呼ばれる東西に方形の張り出し状の施設がとりつく前方後円墳がつくられています。基壇を含む全長は105㍍、前方後円墳の長さは86㍍で、和歌山県下最大級です。墳丘や基壇には埴輪列がめぐり、東西造出では多くの埴輪と灰色の土器、須恵器が出土しました。こうした埴輪や土器の一部は、国の重要文化財に指定されています。また、埋葬移設は岩橋千塚古墳群に特徴的な横穴式石室で、石室内から玉類や武具、馬具、工具、土器などが出土しています。

 最も注目されているのは埴輪です。全国でもこの古墳でしか発見されていない珍しい埴輪が見つかっています。2つのユニークな埴輪を紹介します。

 【翼を広げた鳥形埴輪】丸い胴体と太いくちばしがつく頭部を持ち、鳥が両翼を広げ滑空する姿を表現した埴輪で、「鷹」とみる説があります。岩橋千塚古墳群にしかない特徴的な埴輪といえます。

 【両面人物埴輪】頭部の両面に顔の表現をもつ国内唯一の埴輪です。両顔は、両耳付近で髪を束ねる美豆良(みずら)を共有し、右側の顔は目が丸く柔和で、頬には矢羽根の線刻が施されています。左側の顔は目が細く吊り目で、頬にやじりの線刻が施され、口の上方には切れ込みがあるなど両顔で異なる表情をしています。古墳に悪いものを寄せ付けない特別な霊力をもった人物をかたどったとみられます。

 現在、大日山35号墳は東造出が復元整備され、翼を広げた鳥形埴輪などの形象埴輪群が並べられている状況をご覧いただけます。資料館でも大日山35号墳から出土した本物の埴輪を多数展示しています。 (和歌山県立紀伊風土記の丘 金澤舞学芸員)

写真=大日山35号墳の鳥形埴輪(上)と両面人物埴輪(下)

(ニュース和歌山/2021年10月23日更新)