近年、おしゃれなカフェやパン店、ジェラート店の出店が相次ぎ、県内外から注目を集める町、紀美野町。その草分け的存在が、のかみふれあい公園に近い同町釜滝で17年前から営業する「ベーカリーテラス ドーシェル」です。みかん山の上に位置するこちらの店、パンはもちろんのこと、窓から望む景色も大人気。薪ストーブが置かれた暖かい店内で戸田晶店長(57)に話を聞きました。 (文中敬称略)
週末は県外から
──山の上にある店に、県内外から多くの人がパンを求めて来られます。
戸田 平日は9割が県内ですが、週末は3割が県外です。パンは40〜50種類用意しています。
──人気の商品は。
戸田 隠し味に酒粕を使ったクリームパン、黒糖パンにメロンパン皮をのせ、粒状のアーモンドをかけたメロンパンはよく出ます。釜滝あんぱんはクルミ入りの生地を、ベーグルを作るのと同じように一度ゆでてから焼きます。そうすることでもちっと仕上がるんです。
──店のこだわりは。
戸田 材料はなるべく地元のものを使うよう心掛けていますし、店のすぐ隣にある畑で私自身が育てた無農薬のキンカンやブルーベリー、ハーブ類なども使っています。もちろん素材や作り方にこだわりはありますが、基本的に目指しているのは〝普通のパン屋〟。地域の人が買いに来てくれる、地元の人が街中まで行かなくてもおいしいパンを食べられる店を、との思いをずっと持っています。店のある釜滝地区や周辺ではお葬式の後、手伝ってくれた近所の方にもちを配る習慣があったんですが、今はもちの代わりにうちのパンを使ってくれています。地域に溶け込めたようで本当にうれしいですね。
阪神大震災が転機
──店の看板に、「1989」「1995」「1998」と3つの年が書かれていますが。
戸田 こちらに移る前、宝塚市で初めて店を開いたのが1989年。95年は阪神淡路大震災があった年で、98年は紀美野町に移転した年です。
──阪神淡路大震災を経験されたんですね。
戸田 幸い、うちの店は道具が落ちたぐらいで、建物も大丈夫でした。ただ、すぐ隣の家は倒壊し、近所にも全壊の家はあった。それ以前から田舎で店を持ちたいとの思いはあり、震災が起こったこと、数年経てば2人の子どもが小学校に上がることもあって、田舎で子育てしたいとふるさと和歌山に戻る決心をしました。1年半かけて場所を探し、みかん山の中にあるこの場所に巡り合いました。今、お客さんには海南市内や海が見える西側の風景が人気ですが、実は私がほれたのは東側の雄大な山並みでした。
──あの震災から間もなく20年です。
戸田 近所に熱心な栗農家があり、ここの栗を使ったイベントを、町内に増えてきた店と協力して近々開きたいと考えています。こうした輪をつくっておき、いざ災害が起こった時にそのグループでおにぎりや味噌汁だけではない、一つ上の炊き出しができればと描いています。栗をキーワードに町内のつながりをつくるのが今の目標ですね。
戸田晶…1957年、海南市生まれ。大学卒業後、京都の織物会社に就職。とある夫婦が開くパン店の家族的な雰囲気に引かれて転身を決意し、89年に宝塚市でパン店開店。98年に紀美野町へ。
【ベーカリーテラス ドーシェル】紀美野町釜滝417-3。カフェも併設。原則、月曜と火曜休み(1月14日㊌は休み)。午前10時(水曜は11時)〜午後5時(3〜10月は6時)。同店(073・489・5324)。
(ニュース和歌山2015年1月14日号掲載)