其の弐百七拾〜ご先祖様

幸福度:5
家の妖怪
出没地域:和歌山市

 お正月、A子さんは祖父母の家で過ごすのが恒例だった。結婚してから他県で離れて暮らすA子さんにとって、大好きな祖父母と過ごせる数少ない時間でもあった。早く孫の顔を見せたいと思っていたが、なかなか子宝に恵まれなかった。親戚一同も集まり、賑やかな宴の中、お手洗いに立った廊下で見知らぬ老人を見た。「あんな人、親戚にいたかな?」と思い、宴の席に戻ると、知る顔ばかりで、廊下の老人はいない。そのことを親戚連中に話したところ、その容姿は何代も前のご先祖様だと言われた。祖母が持ってきた古い写真で確認すると、やはりさっきの老人。「何か訳があって出てきたのかな」と皆で仏壇に手を合わせた。次の年、A子さんに待望の赤ちゃんが生まれた。

 

其の弐百七拾壱〜夢の中の動物

幸福度:4
山の妖怪
出没地域:みなべ町

 かつて南部川村(現在のみなべ町)に、失せ物探しの名人がいた。女性で、年のころなら20代の若さ。何でも、夢に不思議な動物が出てくると、なくした物が見つかったという。その動物は、犬の様でもあり、牛の様でもある姿で、山の中をクンクン嗅いで、落ち葉の中から赤い手ぬぐいを掘り起こす。すると次の日には、それまでどこを探しても見つからなかった物が、ひょいと出てくるのだそうだ。この能力は相当なもので、近隣はおろか、遠方からも依頼が来たが、毎日、そんなに夢を見るわけでもないので、断ることも多かったらしい。

 

其の弐百七拾弐〜双頭の蛇

幸福度:5
家の妖怪
出没地域:広川町

 昔、ある男が道端で双頭(そうとう)の蛇を見つけた。馬にでも蹴られたのだろう。ひどく弱っていた。男は蛇を持ち帰り、少しの酒を飲ませて様子を見ると、蛇はすっかり元気になった。もう大丈夫だろうと思い、庭にある柿の木の下に放してやった。翌朝、外へ出たところ、木の下に何やら光る物が。蛇の抜け殻だった。抜け殻もきっちり頭が2つ。「こりゃ珍しいや」と大事にそれを財布に包んだ。蛇の抜け殻を財布に入れておくと、実(巳:み)入りが良くなると言われていたからだ。しばらくして、男はたまたま人からもらった富くじに当たったという。

(ニュース和歌山/2022年1月3日更新)