「吾背子(わがせこ)に 吾が恋らくは 奥山の 馬酔木(あしび)の花の 今盛りなり」作者未詳

 アセビは漢字で、馬が酔っぱらう木「馬酔木」と書きます。ツツジ科の有毒植物で、馬が誤って食べると苦しがって、酔っぱらったような動きをするということが語源です。まさか自然界ではそんなことはないでしょうが、面白い漢字を当てたものですね。

今年も2月下旬と思われる花の見ごろが楽しみ

 

 紀伊風土記の丘では万葉植物園西側の道沿いに多くの株が植えられています。葉は常緑で小さく、すき間がないくらいぎっしり付いています。1月ごろから花茎がのび、つぼみが膨らみ始めます。  

 そしてまだ早春とは言い難い寒いころに、白または少しピンク色がかった小さな花を咲かせます。一つひとつがつり鐘状で、ネジキやドウダンツツジにも似ています。そんな花が花茎に何輪か集まって垂れ下がり、一度にたくさん咲くので、木全体が白く盛り上がって見えるほどです。

 万葉集にはアセビを詠んだ歌が10首残されています。その中に作者はまだ分かっていませんが、こんな歌があります。  

 「吾背子に 吾が恋らくは 奥山の 馬酔木の花の 今盛りなり」

 あなたに私が恋する思いは、奥山に咲く満開のアセビの花のように、今が絶頂です──といった意味です。たわわに咲いて盛り上がり、こぼれ落ちそうなほど満開の花を見ると、止められないくらいに燃え上がる恋心を表現するのにぴったりに思えます。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2022年2月19日更新)