藤波の 咲き行く見れば ほととぎす 鳴くべき時に 近づきにけり 田辺福麻呂

 春になると公園や山裾(やますそ)でフジが咲き出します。房になって垂れ下がる花は多くの人に好まれます。マメ科の植物で、一つひとつの花はエンドウの花とそっくりです。

 この辺りで目にするフジの多くはノダフジで、漢字で書くと「野田藤」です。これは昔、藤の名所だった野田村(今の大阪市福島区)に由来すると言われています。

4月の花札に使われているフジ

 

 フジのようなつる植物は、巻きつきながら上へ上へと日光を求めて伸びていきます。その巻き方には、左巻きと右巻きがあります。ノダフジは正面から見て左上に伸びていくので、左巻きです。

 花にはたくさんのハチが集まってきます。その多くは、黒くて大きいキムネクマバチです。羽音も大きいので恐がる人が多いですが、いたっておとなしいハチです。こちらがいじめない限り人を刺すことはありません。花の蜜を集める時に受粉のお手伝いをしてくれています。そうして、フジは秋になると、長い鞘

(さや)をたくさんぶら下げ、天気のいい日にはじけて中の豆を飛ばし、仲間を増やすのです。

 万葉集にはフジに関する歌が20首以上もありますが、田辺福麻呂は、

 「藤波の 咲き行く見れば ほととぎす 鳴くべき時に 近づきにけり」

と詠んでいます。

 この歌は言葉が分かりやすく、原文のままでも、春の情景を思い浮かべることができますね。花や鳥の声、万葉の人々は自然の様々なものに季節の移ろいを感じていたのでしょう。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2022年4月16日更新)