あかねさす 昼は田賜びて ぬばたまの 夜の暇に 摘める芹これ 葛城王
セリは水辺に生える草で、「せり、なずな…すずな、すずしろ」で知られる春の七草の1番目です。言うまでもなくセリ科の植物で、野菜ではニンジンやパセリ、セロリなどもセリ科です。どれも独特の香りがありますね。
今の季節、葉が出そろい、茎も伸びてしまっていて、あまりおいしくないかもしれませんが、七草粥を味わう1月のまだ寒いころ、若いセリを根ごと摘んで食べると、歯触りや香りが楽しめます。もう少し暑くなると写真のような白い花が咲きます。
万葉集にセリを詠んだ歌は、男女がお互いにやり取りをしている2首しかありません。男性、葛城王から女性、薛妙観(さちのみょうかん)に贈った歌がこちらです。
「あかねさす 昼は田賜びて ぬばたまの 夜の暇に 摘める芹これ」
昼間は、民に田を分け与える仕事をし、夜に時間を見つけて摘んだセリがこれです
──との意味です。好きな人のために、凍(い)てつく夜の田んぼで摘んだのでしょう。
女性からのお返しは、
「大夫(ますらお)と 思へるものを 太刀佩(は)きて かにはの田居に 芹ぞ摘みける」
あなたは立派な男性なのに、腰に太刀を下げたまま、田んぼでセリを摘んでくれたのですね──。
ところで、2人はどんな関係だったのでしょうね。好きでもない人からセリを贈られて、戸惑ったのでしょうか、それとも大好きな人から贈られて、ときめいたのでしょうか。そんなことを自由に想像するのも楽しいものですね。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)
(ニュース和歌山/2022年5月21日更新)