もうすぐ秋の彼岸です。彼岸と言えばおはぎ、和歌山でおはぎと言えば………。 地元で長く愛される味に迫る「和歌山味物語」、今回はぶらくり丁大通り商店街に昭和9年から店を構える力餅です。「普段の週末で400個、彼岸となるとケタが違いますよ」。笑顔を見せるのは、祖父、そして父から味を受け継ぐ三代目の小林俊彦さんです。 

 

ねばりの強い 餅米のみ使用

 創業は昭和9年(1934年)。明治時代から続く京都の力餅で修業を重ねた俊彦さんの祖父、小林菊治郎さんがのれん分けで和歌山市に店を構えました。おはぎを筆頭とする甘味に加え、うどん、そば、丼物を提供する食堂スタイルは開店当初からです。

 作業場に明かりが灯るのは午前4時。餅米(もちごめ)を蒸し、小豆を炊いてあんを作るところから始まります。看板商品のおはぎは創業以来、作り方を変えていません。「使うのは佐賀、熊本の餅米のみ。九州産はねばりが強く、食感が良い。うるち米を入れるか、米粉を混ぜれば、次の日でもやわらかいのは分かっている。でも、そうすると餅の〝力〟が落ちてしまいますから」。当然ながら、保存料や添加物は使わず、宵越しの商品は作りません。その日のうちに味わってほしいとの願いを込め、一つひとつ丁寧に丸めていきます。

 もち米の粒を残し、それを粒あんで包んだおはぎ、杵でついて粒をなくし、こしあんでくるんだあんころ餅、そしてきなこ餅。控えめな甘さが特徴で、平日はそれぞれ200個、土日は400個が午後の早い時間帯に完売します。「彼岸になると三種類とも1000個以上。ありがたいことに、朝からお客様の行列です」。今年の盆も懐かしいふるさとの味を求めて、帰省中の人が多く来店しました。

歴史を感じさせる外観。のれんには2本の杵のシルエット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きつねうどんとセットで注文

「きつねうどんとおはぎ2個」「親子丼、それときなこ餅、あんころ餅1つずつ」──。常連客の注文はこなれたもの。甘い物は別腹とばかりに、食事メニューとセットで次々と売れていきます。餅類をテイクアウトする客も後を絶ちません。

一番人気、刻み揚げたっぷりのきつねうどんと、おはぎ・きなこ餅のゴールデンコンビ。常連客らの定番だ

 めん類や丼物も根強いファンが多くいます。「ダントツの人気がきつねうどん。一般的には甘く煮た揚げがのっていますが、うちは昔から刻んだ揚げなんですよ。細かく切った揚げにしゅんだ出汁のうまみが最高です」。 自信を持つその出汁は、かつお節にうるめ節、さば節に昆布と、独自ブレンドで手間を惜しまず取るこだわりです。

店内にかかるメニューに懐かしさがあふれる(2022年撮影)

 大学卒業後、店に入った俊彦さん。「餅、うどん・そば、丼物と覚えることが多くて大変でしたが、『どんなときも仕事は丁寧に、手を抜いてはダメ』とたたき込まれ、その通り、守ってきました。『昔と変わらない味やね』と食べてくださるお客様の顔を見ているのが何よりうれしいです」

 

 

力餅

和歌山市元寺町1-82
10:00〜18:00
火曜定休 (祝日の場合は営業)
電話 073-422-4347

(ニュース和歌山PLUS85号/2022年8月26日発行)