10月、秋のしらすシーズン到来です。今回の「和歌山味物語」は江戸時代末期創業、山利(和歌山市本脇)の釜あげしらすです。顧客リストには北海道から沖縄まで、個人、飲食店合わせて12万件。全国に根強いファンを持つ味の秘密を、七代目・木村尚博さんに聞きました。
漁協まで40秒 抜群の鮮度
初代・木村利右ヱ門が活躍したのが安政年間(1855〜1860)とのことですから、創業から160年以上。「そのころは加工場のすぐ目の前が二里ヶ浜で、紀の川の河口まで続いていました。その浜で地引き網をしていたそうです」。捕れた様々な魚を干物にし、販売したのが原点。曽祖父の四代目までは漁師も兼ねていました。
この伝統を受け継ぐ七代目。漁船の帰港を知らせるサイレンが鳴ると、軽トラックでわずか約40秒の場所にある西脇漁港へ急ぎます。捕れたばかりの透き通るようなしらすを目利きし、店へ戻るやいなや冷水で洗い、天然塩で釜ゆでしていきます。「以前、とあるテレビ番組の密着取材で時間を計ったところ、船で水揚げされてから、加工場でゆであがるまで、わずか20分でした。ここまで鮮度の良いものは全国にもないと思います」と胸を張ります。
ゆでる際に使うのは、赤穂の天塩。精製する際に出たにがりをもう一度戻して作る天日塩です。「にがりは熱を持つと、食品のうまみに反応し、引き立ててくれます。価格は一般的な塩の6倍ほどと高額ですが、うちのしらすには欠かせません」
若者の日常に 近づけたい
元々、市場に卸すのが中心で、小売りはご近所さん程度でしたが、35年ほど前、他店に先駆けて通信販売を始めました。きっかけは、いつも大阪から和歌山まで買いに来てくれていた得意客からの依頼。運送会社の支店長と綿密な打ち合わせをし、氷でしっかり保冷したしらすを翌日、届けました。「まだ冷蔵便も、日にち指定配送もなかった時代。喜んでいただけました」。これをスタートにファンは全国へ。沖縄本島の西約40㌔にある座間味島のレストランからも注文が届きます。
2016年には加工場の一角に店を開設。地元の常連客に加え、他府県から磯の浦海岸を訪れた際に買い求める若いサーファーも少なくありません。
思い描くのは、例えばコンビニエンスストアで買うようになるぐらい、特に若者たちの日常にしらすを近づけること。もう1つ、全国のあらゆるジャンルの飲食店がしらすを使ったメニューを一品は提供するようになることです。「うちのものでなくてもいい。すそ野が拡大すれば、僕らが活躍できる場も広がりますから」
日々、しらすを見定めるその目は、未来をしっかりと見つめています。
山 利
和歌山市本脇543
電話 073-455-0013
※営業時間と定休日はホームページでご確認下さい。
山利ホームページからも購入できます。
(ニュース和歌山PLUS90号/2022年9月30日発行)