恋しけば 袖も振らむを 武蔵野の うけらが花の 色に出なゆめ 作者未詳

 オケラとは面白い名前の植物です。畑仕事をしている時によく見かける昆虫にもケラがいて、ふつうオケラと呼ばれていますね。どちらもどんな理由でこの名前になったのかの解説は、専門の先生にお任せしようと思いますが、秋の野に咲く清楚な花にこんな名前がついているのは興味深いことです。

白い花を囲う、魚の骨に似た部分が包葉

 さて、オケラはキク科の植物で、秋に白い花を咲かせます。この花には花びらがありません。キク科の植物にはよくあることで、雄しべや雌しべが何本も飛び出ているだけです。そして全体が魚の骨のような黒褐色の包葉に覆われています。花がしおれた後にはタンポポのような綿毛ができます。草丈は大きなもので1㍍ほど、葉の多くは3枚に分かれ、少し硬めで周りにギザギザがあります。

 風土記の丘では万葉植物園にたくさん植えられていますが、たまに自生株もあり、歩いていて思いがけず花を見つけたときはうれしくなります。でも、草刈りの時期と重なると、刈り取られてしまい、なかなか増えてくれません。枯れ草が目立つ季節に白い花は一際目立ちます。

 万葉集にはその様子を恋心に重ねたこんな歌が残されています。

「恋しけば 袖も振らむを 武蔵野の うけらが花の 色に出なゆめ」

 昔はオケラをうけらと言いました。あなたを恋しいと思ったら、私が袖を振りますから、あなたはオケラの花のように目立つことはゆめゆめしないでください──との意味です。当時、袖を振ることは、相手に好意を示す仕草とされていたそうです。(和歌山県立紀伊風土記の丘職員、松下太)

(ニュース和歌山/2022年10月15日更新)