かんきつの皮を発酵させて酵母を仕込み、不ぞろいの果物や野菜をジャムやソースに加工してパンを焼くのは和歌山市園部のベーカリーチックタック、輿石紘一さん(34)。愛情いっぱいの品は毎日でも食べ飽きないと常連の胃袋をつかんでいます。「規格外のものも大切な食材。破棄せず商品に変身させるのが腕の見せどころ」と目を輝かせます。

 

規格外食材生かし

──商品が豊富ですね。

 「梅肉ソース入り厚焼き玉子サンド、北海道産ライ麦のカンパーニュといった定番はじめ、毎日60〜70種類を出しています。秋しらすとクルミのパン、バターナッツカボチャとベーコンのピザなど季節の食材を使ったものも。選ぶ楽しみ、食べる幸せを感じてもらえます。パンドミも自慢です」

──パンドミとは?

 「食パンのこと。高級食パンのようなリッチな味とは違い、普通の味です。でも日常食だからこそ、飽きずに食べ続けたいと思ってもらえるのが大事。1斤280円と手ごろながら、自家製レーズン酵母で甘味と酸味のバランスをとり、奥行きのあるうま味を引き出しています」

──酵母は自家製?

 「2種類あり、一つは一般的なレーズン酵母です。食パンのほか、ハード系や惣菜パンに使います。もう一つはかんきつを使ったもの。昨年3月の開店時、和歌山ならではのものをと考案しました。湯浅町のみかん農家から、ジュースへ加工した際に残る皮を買い、酵母を仕込みます。これでクリームパンやメロンパン、ドーナツ、バターと砂糖たっぷりのブリオッシュシュクレといった甘いパンを焼くと、甘味だけでなく、さっぱりさわやかな香りが立ちます」

──こだわりは?

 「食材は旬のものを各地から取り寄せますが、大半は県産です。和歌山は生産者との距離が近く、本当においしいと思えるものがたくさんあります。ドライフルーツやナッツ類をすき間がないくらい詰めたパンオフリュイには、赤ワインで煮詰めた海南市のイチジクを、シロップごと入れます。ジャムやソースにする材料には、規格外品も用います。見た目が悪かったり、風で落ちて少し傷付いたりしても、農家さんたちが育てた大切な食材ですから」

 

朝日浴びながら

パンボックス

──出身は?

 「山梨県です。両親が共働きで、小学校高学年から弟と妹の食事作りを担当していました。喜んでもらえる楽しさに触れ、料理人の道へ。東京のフランス料理レストランで修業し、27歳で転職しました。将来の独立を考えて選んだのは、朝日を浴びながら仕事し、夜は家族との時間を取れるパン職人でした。パン店の店長として腕を振るい、2号店を任される話が出ていた矢先、妻が『和歌山のベンチャー企業で働きたい』と…。二人とも縁もゆかりもない土地。2ヵ月悩み、単身で紀北地域を見て回り、パン好きな人が多い土地柄だと知り、ここで挑戦しようと決めました」

──今後の展望は?

 「『きょうこれ採れたから』と農家さんが届けてくれた食材を前に、何を作るか考える時間が一番楽しい。土地のものを余すことなく使い、愛されるパン店を目指します」

 

【ベーカリーチックタック】
和歌山市園部637-1 ロイヤルハイツ吉田
☎073・488・2954
㊐㊊㊗︎休み
8:00〜15:00

(ニュース和歌山/2022年10月22日更新)