尾が雀の尻尾に見えることが名の由来。3枚におろした小鯛(チャリコ)で酢飯を丁寧に包んだ「小鯛雀寿し」は、創業から120年以上経った今も和歌山水了軒を代表する看板商品です。ほのかな塩味と酸味の絶妙な味わいは、ふるさとを懐かしむ県外の人からの注文も多く届きます。人気の秘密を4代目、八木一朗社長に聞きました。

和歌山の 旅を彩る

 和歌山に鉄道が開通するにあたり、食堂車で使う食材の提供や保存管理を担う会社として明治31(1898)年に創業。当時、鉄道を利用する人は富裕層が主流でした。曾祖父である初代・八木亀太郎社長が「口の肥えた方たちのために仕入れた質のいい食材を使って、もっと多くの人に喜んでもらえる商品を」と、弁当と寿司の製造販売を発案。旅を彩る和歌山ならではの味をと120年以上前、地元・加太の小鯛を使った雀寿しを世に送り出しました。

 「そのころは、小鯛と氷を入れた木箱をリヤカーに積み、加太から人力で運んだそうです。道路が整備されておらず、特に夏場は大変な苦労があったと聞きます」と一朗社長。時代とともに流通が整い、冷蔵技術が進化し、現在は主に紀淡海峡でとれた新鮮な小鯛を仕入れています。

 販売当初から決して曲げないこだわりが〝活け〟しか使わないこと。その日の水揚げによって作る個数は変わりますが、「そこだけは譲れない」と固い意志を貫きます。

▲小鯛雀寿し(6個入※予約注文)。淡いピンクのチャリコの尾が、雀の尻尾のよう。写真で一朗社長が持っているのは手土産にぴったりな雀寿司(6個入)

 

進化すること 守るべきこと

 約20年前、昔ながらの味を守るにあたり、危機が訪れました。隠し味として使っていた調味料が品薄になり、手に入らなくなったのです。目の前が真っ暗になるような焦りの中、仕方なく代替え品に切り替えて販売。するとすぐに、お客様からお叱りの電話が入りました。

皇室へ献上するなど、和歌山の銘品としての地位を確立しました

 「お詫びの言葉を繰り返しながらも、ほんの少しの違いを敏感に感じ取っていただけたことに、感謝と喜びがあふれました」。すぐさま全国を駆け回り、ようやく調味料を手に入れたときには、「いつもの味」をお届けできる安堵と、「機械化や技術の進歩など、時代とともに進化することはあっても、絶対に変えてはいけないものがある」との教訓を得たと言います。

応接室に置かれている昭和初期のレジスターは先代社長愛用の品。同社の歴史を物語ります。

 自宅用にも手土産にも重宝され、ネット通販では、ふるさとの味を懐かしむ遠方からの注文も。「JR和歌山駅を出て南西すぐのビルに小鯛雀寿しの大きな看板があるのですが、久しぶりに帰郷した方がこれを見て〝ホッとする〟と言ってくれるのがうれしくて。これからも郷土の寿司として味を継承しながら、長く続けなければと気を引き締めています」

 現在は「わさび寿司」(季節限定)や「熊野牛巻き寿司」などバラエティ豊か。「改めて『寿司』を見直し、さらにたくさんの方に愛してもらえる商品づくりにチャレンジしたい」と目を輝かせます。

和歌山水了軒

和歌山市太田1-14-6
9:00~15:00 
不定休
電話 073-475-6150
※本店、和歌山MIO、紀ノ川SA(上り)「味菜」で販売
ネットショップはこちらから→http://www.w-suiryoken.co.jp

(ニュース和歌山PLUS97号/2023年4月28日発行)