絵は、和歌山市安原にある武内宿禰誕生井付近の風景です。

 武内宿禰(八四~?)は、現在の和歌山市松原で誕生し、その時、この井戸の水を産湯にしたといいます。彼は、景行、成務、仲哀、応神、仁徳の五代(第十二代から第十六代)の天皇に仕えたレジェンドです。もし、これが本当だとすると、三〇〇年以上生きたことになります。また、紀氏をはじめ二十七もの古代豪族の祖として知られています。

 絵図には江戸時代中期に井戸の側に建てられた「武内宿禰誕生井」(本当は「たけうちたんじょうの井」)と刻んだ緑色片岩の石碑がえがかれています。紀州徳川家では藩主に子が生まれると、彼の長寿にあやかり、この井戸水を産湯に使ったといいます。

 庶民の立入は禁止されていたのでしょうか。絵図では、入口の木戸から中をのぞき込んでいます。現在は武内神社の境内で石段を上がり、敷地に入ると、屋形がかけられた井戸の上に釣瓶(つるべ)が置かれています。無断で井戸水を汲まず、節度あるご利用をお願いします。

関西大学非常勤講師 額田雅裕

画=西村中和、彩色=芝田浩子 ※彩色前の原画は国立国会図書館デジタルコレクションより転載

(ニュース和歌山/2023年6月24日更新)