地元菓子の定番として人気の「和歌浦せんべい」。和歌浦景勝地の焼き印が押された玉子せんべいのサクサクッとした食感に、どことなく安心感をおぼえます。「一丁焼き」という一枚一枚手焼きする昔ながらの製法を守るのが、種萬 廣田本舗の井上博光さん。ピンクソルトやココナッツなどオリジナル商品も送り出しながら、老舗の味と自らの思いを込め、焼き続けています。
江戸時代から なじみ深い味
ほんのり甘い玉子せんべい。井上さんによると、「戦後すぐには、和歌山市の各町に一軒はせんべい店があったと言われるほど、なじみ深かったようです」。
そのひとつ、本町に店を構えていた種萬は江戸末期の創業です。戦後、そこから分かれ、和歌浦で廣田本舗を始めたのが廣田章さん。井上さんは15年前、廣田さんに弟子入りし、せんべいを焼き始めました。
「昔から和歌浦せんべいが好きでしたが、20年ほど前に廣田さんが焼いたものを食べたとき、それまで食べていたのとは全然違うことに驚きました。サクサクして口どけが良く、香ばしい。それからよく買いに行きました」
当時は別の仕事をしており、引き継ぐ気はまったくありません。5年ほど経ち、廣田さんとの共通の知人から「そんなに好きなら、やってみたら」と誘われたのが転機となりました。「焼くのは夜中の1時か2時からで、朝には終わる。昼間はいまの仕事をできる」と考え、弟子入りを決断しました。
しかし、詳しいレシピは教えてもらっていません。「小麦粉、卵、砂糖、重曹を入れたらできる」と言われただけです。自分なりに工夫し、2年近く修行して独立しました。
一枚一枚に 心をこめて
「味は廣田さんのせんべいに近いと思いますが、正確に同じかと聞かれると、どうでしょう。ひとつ言うと、廣田さんは香ばしさが出るよう、しっかり焼いていました。私はこがさないようにしており、香ばしさは廣田さんの方がありますが、私のは卵感が出ています」
一枚ずつ焼くため、生地の分量や型への流し込み、焼き時間などで味が変わります。せんべい内の空気を均一にして同じ食感になるよう、同じペースで同じように焼き、焦げて苦みが出ないよう観海閣の焼き印は薄めに押します。焼くのはやはり夜中。時に夕方まで焼いても、1日600〜700枚が限界です。
販売は主に全国各地のイベントです。「まず味を知ってもらい、気に入ってもらえば、その後はネットショップで買っていただいてます」。
商品は、定番の和歌浦せんべいとニッキせんべいのほか、ココナッツやひまわりの種、みかん、ハッサクなど10数種類。どれも一丁焼きにこだわりながら、和歌山の伝統の味を全国に伝えています。
種萬 廣田本舗
和歌山市松江西2-5-13
073-451-5525(井上)
http://hirotahonpo.web.fc2.com/
(ニュース和歌山PLUS101号/2023年8月25日発行)
※記事内容はすべて、2023年8月25日時点のものです。
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