「1個ください!」とやってくる元気な小学生から、家族団らん、手土産にと訪れるお年寄りまで…。人や場所を選ばず笑顔になれる「ずぼら焼」。冬本番を迎え、ぬくもりが手から体中に伝わる優しい味で愛されています。3代目店長、今井政文さんにお話を伺いました。

駄菓子屋から 海南名物に

左から三代目の今井政文さん、妻の麻美子さん、娘の藤岡晴香さん。家族の笑顔もお店の魅力です。

 1959(昭和34)年、海南市東浜商店街で創業したずぼら焼。現在は、妻の麻美子さんとともに店を切り盛りしています。

 そのルーツは戦前、麻美子さんの祖父が開いた駄菓子屋。戦時中は洋品店に業態を変えた時期もありましたが、祖父が出征から戻り〝うちにはお菓子屋が合っている!〟と、駄菓子屋として再出発しました。「和菓子や、当時は珍しかったキャラメルも手作りで販売していたそうです。その中で残ったのがずぼら焼。2代目は義父が、3代目は私が継ぎ、家族でずぼら焼の看板を守っています」

 88年、麻美子さんとの結婚を機に、店頭に出るようになった政文さん。2代目から最初に教わったのはあんこ作りです。砂糖や塩などの分量は今も創業時のまま。季節や、仕入れた小豆の状態からゆで時間を見極め、3〜4時間かけて根気強く煮詰めます。

 

 

 

 

 

やさしい甘さが郷愁を誘うずぼら焼。温め方のコツは、①30〜40秒レンジにかける(冷凍の場合は1分程度) ②トースターまたはフライパンで表面がパリッとなるまで焼く、の2ステップ。「焼きの段階でバターをちょい足しするのもおすすめですよ」と晴香さん。

家族で作る 伝統の味

 ところで、「ずぼら焼の〝ずぼら〟って?」と疑問に思う方も多いかもしれません。これは昔、小豆の価格が上がっても原価計算を〝ずぼら〟にし、お客様にいつでも同じ値段で同じ味を楽しんでほしいという思いから名付けたそうです。

 黒あん、白あんは当初からの顔ぶれ、90年ごろになってカスタードが加わりました。包み込む生地の材料は小麦粉をベースに砂糖や卵などを配合します。

 この時、注意しなければならないのが、水の温度です。目安となる23度をキープするため夏場は冷水で混ぜ合わせます。直径7.5㌢、厚さ3㌢の焼型に生地を流し込み、約10分。焼き色にムラがでないよう気をつけながら、クルクルっと素早く回します。できあがる頃になると、店先にまで芳ばしい香りが漂います。

 最近は娘の藤岡晴香さんが店を手伝うようになりました。「娘は洋菓子の修業をしていました。ずぼら焼の味を変えることはないですが、新しい発想でチャレンジするのは大歓迎。一緒に店を盛り立てていきたい」

 笑顔いっぱいの仲良し家族が作るずぼら焼を求め、今日も多くの人が訪れます。

ずぼら焼

緑のタイルにオレンジの看板が目を引きます。海南ノビノスができてからは、若い人がコーヒー片手にずぼら焼を買いに来てくれるそう。時代が移り変わっても、街のランドマークであり続けます。

海南市日方210 
☎073-482-4124
(営)9:30 〜 18:00 ※売り切れ次第終了
㊡火曜、12/31と年始  (2023年11月26日 〜 28日は臨時休業)
駐車場あり
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(ニュース和歌山PLUS104号/2023年11月24日発行)
※記事内容はすべて、2023年11月24日時点のものです。
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