「実力を発揮し、世界でどこまで行けるか──」。10月にアルゼンチンで開かれるヨットのスナイプ級世界選手権に、和歌山市出身で東京大学大学院1年の西尾拓大さん(23)が出場します。2人乗りのスナイプ級に転向して4年弱。日本からは8艇が参加予定です。桐蔭高校時代にオランダとドイツで挑戦して以来となる世界の舞台を控え、胸を高鳴らせています。

メンタル重視

東大ヨット部から初めてスナイプ級世界選手権に出場

──東大同期の柳澤球大朗選手と世界大会です。

 「私は(主に艇を操縦する)スキッパー、彼は(海面の情報を読み取る)クルーです。大学時代は団体戦で勝つための戦略として、彼とは公式戦で組みませんでした。もちろん互いの役割は理解しており、問題ありません」

──得意な海の状態は。

 「強風で、うねった大きい波です。サーフィンのイメージで波に乗り、スピード感がありながら、繊細な動きをして、うまくできた時の感覚が好きです」

──重視しているのは。

 「ヨットは、技術よりメンタル的なことに左右されます。うまく行かなかった時もペアで前を向き、心地良い空気感をどう作るかを考えています。レースでは、身に付けた技術をどれだけ発揮できるかが重要です」

勝ち喜び合う

後部で操る西尾さん

──高校までは1人乗りで活躍していました。

 「始めてからずっと1人。良くも悪くも自分の実力がそのまま出るのが楽しかったからです。高校の時は、山口県に同学年の鈴木義弘さんという世界に通用する選手がおり、私は一度だけ全国優勝しましたが、ほかはインターハイを含め万年2位。憧れつつも、悔しさがありました」

──大学で2人乗りに。

 「勝ちを喜び合う良さに気づきました。1年の10月、全日本学生個人選手権シングルハンドレガッタで優勝し、後はずっと2人乗りです」

──入学時からエースと期待されていました。

 「未経験者がほとんどなので、下級生の時から『引っ張って行かないと』と考えていました。ですが、慣れない2人乗りの艇で期待に応えられず、実力と期待とのギャップに悩みました。3年になる時、環境を変えようとコーチに来てもらい、また、全国の上手な選手と積極的に交流し、上達法を模索しました」

──3年の全国大会で結果を残しました。

 「先輩の山村紅葉(くれは)さんと組んだことも大きかったです。動作の良し悪しをフィードバックし合い、思考サイクルを速くして技術を効率的に修得できました。全日本インカレのスナイプ級団体5位入賞は、東大で38年ぶりでした」

──世界大会の目標は。

 「2つあります。1つは、自分たちの実力を発揮し、出場80艇中20番ぐらいに入ること。本音はトップですが、実際にどこまで通用するか。2つ目は、ヨットに関する状況を知ることです。日本では大学卒業時に9割以上がやめます。週末に取り組む人が多い海外の様子を見て、いずれ気軽に楽しめる環境づくりにかかわれたらと思います」

スナイプ級世界選手権

 10月26日㊏~11月2日㊏、アルゼンチン・ブエノスアイレス。クラウドファンディングのキャンプファイヤー「世界の舞台へ挑む東大ヨット部OB西尾/柳澤ペア!」で7月末まで支援を呼びかけている。

(ニュース和歌山/2024年6月8日更新)