ジビエの代表格、イノシシとシカを表し、「ちょろく」とも読める「猪鹿」に親しみを込めたペットフードブランド「ちゃろっく」(紀美野町蓑津呂)。森谷一斗さんと中谷三幸さんが2023年4月に立ち上げ、2人で捕獲、解体、精肉から、ドッグフードへの加工、販売まで行っています。「命を無駄にしない」ことを第一に、「将来は人向けの精肉販売につなげたい」と見据えています。
2人で捕獲〜販売
──なぜジビエを?
森谷「地元産を使い地域課題を解決できないか考えたのが最初です。荒れた竹林の活用などが候補に上がる中、『高齢化で猟師が減り、イノシシやシカに畑を荒らされ困っている』と耳にしました。捕獲後の処分の負担が大きいと知り、どうすれば良いか話し合っていた時、友人に『犬のごはんを作って』と頼まれ、『それだ!』と思いました」
──以前からペットフードを?
中谷「ペット関係は未経験。犬のことを理解するために勉強し、ペットケアアドバイザーなどの資格を取得しました。開発した商品はインターネットで販売を始め、イベントにも積極的に出店。ジビエの特徴や魅力を直接伝えることで、徐々に人気が出てきました」
──こだわりは?
森谷「町内の獣害がある場所にワナを仕掛け、かかった動物のみを使うことと、鮮度が落ちないよう獲って2時間以内に解体すること。わざわざ山奥へ探しに行ったりしません。また、捕獲から解体、加工、販売まで自分たちだけで行うのが強みで、『顔が見えるから安心』と言ってもらえます」
中谷「嗅覚が敏感な犬の食欲をそそるため、ジャーキーはすべてくん製処理をしています。そのほか、しつけの時に少しずつ与えられるようミンチで作ったり、厚みを変えたりと細かい工夫も。内臓や骨は部位ごとに分けており、それぞれの味や食感を楽しめます」
命を扱う重み痛感
──捕獲や解体の経験はありましたか?
中谷「何も分からなかったので、まず地元の猟師さんにイノシシの解体を教わりました。この時は1時間ほどで終わりましたが、次に2人だけでシカを解体した時は5時間ほどかかりました。さっきまで生きていた動物を前に恐ろしさを感じ、ずっと泣いていましたね。『この先やっていけるだろうか』と、とても不安になりました」
──印象に残るのは?
森谷「昨秋、狩猟免許を取り、けい動脈を切ってとどめを刺す『止め刺し』を初めてしたことです。命を扱う重みを痛感し、不安や葛藤を払拭するのに時間がかかりました。『少しでも苦しまないように』と研究を重ね、今はスムーズに血抜きできますが、決して慣れることはないです」
──意識しているのは?
中谷「お客様の声を形にすることです。最初は数種類のジャーキーのみでしたが、『生肉がほしい』との要望に応え、昨年10月から販売。さらに、災害時に『ペットを連れて避難所に入れなかった』『ごはんを食べてくれなかった』と聞き、3年間保存できるレトルトフードを考案、7月に商品化しました。骨でとったスープでじっくり煮込んだ『クタクタ煮』は、水分補給もできるひと品です」
──今後は?
森谷「無駄にしてしまっている部位や皮の利用です。いずれは人が食べられるジビエを販売したい。頂いた命を大切にすることを忘れず、試行錯誤し続けます」
(ニュース和歌山/2024年9月14日更新)