切目王子(印南町西ノ地)は、熊野九十九王子の中でも藤代王子・稲葉根王子・滝尻王子・発心門王子と並んで格式の高い五体王子の一つとされています。五体王子とは、熊野三山で祀られている若宮・禅師宮・聖宮・児宮・子守宮の五所王子すべてを祀る王子社をいいます。

 そこでは奉幣や経供養だけでなく、特別な舞や神楽など芸能的な儀式が行われました。また、正治二(一二〇〇)年十二月三日、後鳥羽上皇は切目王子で和歌を詠む歌会を催しました。ここで詠まれた十一名分の和歌を清書した「熊野懐紙」(西本願寺蔵)は国宝に指定されています。

 絵は、江戸時代後期の切目王子付近の風景です。境内は海岸段丘面にあたり、鳥居・「長床」と「本社」の間には小川が流れていますが、現在、小川はなく建物配置も異なっています。背景には印南付近の穏やかな枯木灘がみえています。

 熊野古道は、塩屋王子(御坊市)からここまで海岸沿いを南下しますが、岩代へは切目崎海岸を避けて榎木峠を越える山道を通っています。

画=岩瀬広隆、彩色=芝田浩子

(関西大学非常勤講師 額田雅裕)

(ニュース和歌山/2024年9月14日更新)