卓越した技能者を表彰する厚生労働省の「現代の名工」に昨年11月、和歌山市楠右衛門小路でバー・テンダーを営む平野祐(たすく)さん(59)が選ばれました。「酒だけでなく、シロップやハーブなど副材料の特徴を見分ける力と、シェーカーの音からおいしさのピークを判断する技能が評価されました」と照れくさそうにほほ笑みます。
シェークがカギ
──音でおいしさのピークが分かるんですね。
「氷の入ったカクテルシェーカーを振っていると、中はマイナス数度になります。すると、液体がだんだんシャーベット状になってとろみが付き、音が変化するんです。そのちょうどいいタイミングを聞き分け、一番おいしい状態で提供します。私の師匠、早川惠一さんから教わりました。後に日本バーテンダー協会の会長を務め、2022年に黄綬褒章を受章された方です」
──ほかには?
「最初はグラスの洗い方からトークの言葉選び、バーテンダーとして必要な立ち居振る舞いといった基本的なことから入りました。慣れてくると、時々に人気の味や、オリジナルカクテルの流行の名前など、業界のブームについて勉強させてもらいました」
──嬉しかったことは?
「10年ほどこの店で修行していた若者が独立後、ワールドクラスというカクテルの世界大会で優勝したことです。20歳から働き出し、私が早川さんから教わったように、バーテンダーのイロハから教えた相手が華々しく羽ばたいてくれたんです。そういった人材を輩出できたことも、今回の受賞につながったんだと思います」
身近な話し相手
──何歳でバーテンダーに?
「22歳です。昼間は自動車部品を扱う仕事をしながら、夜は和歌山市岡山丁にあった『クレイジーココ』という店で働いていました。この頃、早川さんと出会ったことが大きな転機になったんです。もっと腕を磨きたいと、和歌山のバーで働きながら、早川さんの店があった大阪の北新地まで通い、修業を積みました」
──店を持ったのは?
「1994年12月、28歳の時です。当時は県内に本格的なバーはほとんどなく、この店から文化や知識を広めたいと思いました。ありがたいことに昨年末で30周年。開店当初来てくれた方が、今でも顔を見せてくれたりします」
──普段から意識していることは?
「お客さんに最適な一杯を提供することです。甘さはどのくらいか、飲み口はさっぱりしたものがいいか。場合によっては体調を聞くこともあります。あまりお酒に詳しくない方が『何を頼もうか』と迷っている時は、特に好みや気分に注意しますね。バーテンダーは、バーが『酒場』、テンダーは『見張る』『世話をする』『優しさ』という意味があります。初めてバーに入るのって、照明が薄暗くて店内が見えにくいため、『敷居が高い』と感じる人が多いと思います。でも、帰る時には常連になったような気分で家路についてほしい。それを演出するのが私の役目です」
──今後は?
「今回の賞をいただいたのはもちろんうれしいですが、これからも変わらず、みなさんの身近な〝話し相手〟でありたいですね」
バー・テンダー
和歌山市楠右衛門小路11谷口ビル1階。午後9時〜午前2時。㊐定休。073・427・3157。
(ニュース和歌山/2025年2月1日更新)