江戸時代、五十五万五千石の石高を誇った紀州藩にちなむ菓子「五十五万石」。包み紙に施された葵の紋が光ります。1950(昭和25)年の創業時から変わらぬ味が、年齢を問わず幅広い層に支持されてきました。その味の秘密を3代目の田川晋朗さん(57)に伺いました。

 

薄種とあんのバランスが命

創業当時の製法を忠実に守りながら、時代と共に歩む3代目・田川晋朗さん。先人への敬意と郷土への愛情を胸に和菓子づくりに励みます。

 創業時から70年以上作られている五十五万石は、こしあんを真っ白な薄種ではさみ込んだ上品な和菓子です。口に入れると薄種がほろりと溶け、小豆の風味を引き立てます。
 味を決めるのは、薄種とあん、求肥のバランス。あんは、北海道産小豆を原料に、砂糖を加えて丁寧に炊きあげます。あんを求肥で包み、極みじん粉をまぶし、薄種ではさみます。「あんは甘さ控えめ、求肥はもっちりと柔らかく。すっと口の中でなじむ、こだわりの水加減です」
 こうしてできた五十五万石は、お土産やお供えを始め、普段のお茶うけにも利用されています。「年配の方はもちろん、若い方も『おじいちゃんが食べていたから』と買いに来てくれます。創業者の清水真三が『味を変えないように』と言い残しており、店に奉公していた二代目の父・晃も、私も、大切に守り続けています」

 

紀州への誇り愛を名に込め

城下町・和歌山の歴史と誇りを一口に詰め込んだ銘菓。受け継がれる職人技が光る看板商品です。

 五十五万石の名と葵の紋は、創業者が紀州徳川家16代当主の頼貞氏に使用を申し入れ、快諾を得たことで実現しました。店名の「うたや」は、和歌山の「歌」が由来。郷土への誇りや深い愛を、名に込めています。
 昨秋、和歌山で開かれた将棋の竜王戦で、佐々木勇気八段が「勝負おやつ」として2回注文。ファンが来店するなど、新たなお客様も増えました。
 時代が変わっても、「守るべきものを守り、菓子を通して和歌山を伝えていきたい」との気持ちは不変。和歌山の人々の記憶と暮らしに寄り添い続ける高い熱量は健在です。

 

伝承紀風菓 うたや

和歌山市堀止西2丁目10‐14
073-425-6359
営業時間/9:00~19:30
㊡火曜日

 

(ニュース和歌山PLUS120号/2025年3月28日発行)
※記事は2025年3月28日時点です。
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