ひな飾り道具の1つで、ついたてのように使う几帳(きちょう)。2月1日(月)~3月3日(木)に紀美野町菅沢のかじか荘で開かれる展示会「甦りの雛美な(ひなびな)」で披露されるのは、昭和28年(1953年)に和歌山を襲った紀州大水害後、同町小川地区にあった旧小川村役場が花嫁衣装に貸し出した留め袖をリメイクしたものだ。新たな命を吹き込んだ地元のグループ、リサイクルアートの新谷垣内悦子さん(80)は「古い着物には持ち主の思い出や地域の歴史が詰まっている。作品を通じ、古き良き文化を見直すきっかけにしてほしい」と望んでいる。
13人が活動する平均年齢75歳のサークル。自宅に眠る着物の生地などを持ち寄ってベストやブラウスなどを作っている。毎年秋に公民館の文化祭で展示するほか、町の活性化に一役買おうと、昨年からかじか荘で展示会を開いている。
注目は、紀州大水害後、村役場が新婚夫婦のために用意した留め袖を仕立て直した几帳。新谷垣内さんは、多くの建物が流され、田畑が水没した当時を振り返り、「水害で暮らしは貧しくなり、村は若者を地元に引き留めるため、花嫁衣装として留め袖を貸し、公民館で式を挙げました。私もその1人で、大助かりでした」と懐かしむ。
1955年に旧野上町に合併されると、徐々に貸し出し制度がなくなったため、ほとんどの人から忘れ去られていたが、一昨年、公民館の押し入れで発見された。「約60年ぶりの再会に感激し、結婚当時のことを思い出しました」と新谷垣内さん。水害の記憶を伝えようと、優美な花模様が映える几帳によみがえらせた。昨年の展示会では2ヵ月間の会期中に約4000人が訪れ、若いころに同じ留め袖を使った来場者と思い出や水害の苦しかった経験などを語り合った。
今年は几帳に加え、使わなくなった掛け布団の綿を詰めたさるぼぼ300体を高さ約3㍍から吊るした大作や、陶器に顔を絵付けして着物を着せた福娘などを出品。花嫁道具の1つとして購入した桐ダンスの板に生地を貼り付け、十二単のお雛様を表現した作品など約150点が並ぶ。
午前11時~午後8時。2月21日(日)午前10時半から、ミニ雛とさるぼぼづくりのワークショップを開く。無料。予約不要。また、13日(土)午前11時と午後3時から「甦る昭和歌謡ショー」がある。1000円。かじか荘(073・498・0102)。
写真=思い出の留め袖で作った几帳と新谷垣内さん(右)
(ニュース和歌山2016年1月30日号掲載)