ロボットやICT(情報通信技術)を活用して農業の効率化を目指す「スマート農業」。和歌山市梅原のNKアグリは、全国の生産者をICTでつなぎ、特定 の作物を長期にわたり出荷する仕組みを開発し、1月に総務省の地域情報化大賞・地域サービス創生部門賞を受賞した。一方、同市栄谷の和歌山大学が研究する 農業用パワーアシストスーツは今秋、商品化される。いずれもコンピュータの力で、農業の未来を切り拓こうとしている。
NKアグリ〜ICTで地域つなぐ
NKアグリは、写真処理機器メーカー、ノーリツ鋼機のグループ会社として2009年に設立された。梅原にある1㌶の野菜工場でレタスを通年栽培するほか、県内外の農家と連携し自社ブランドの水菜やニンジンを育て、まとめて出荷する。
今回受賞したのは、一般的なニンジンにはほとんどないリコピンを豊富に含んだ紅色のニンジンを生産、流通させる仕組み。通常、各地域のニンジンの出荷期間は約1ヵ月だが、気候の異なる北海道から九州まで10道県60人の農家と連携し、同じ品質で6ヵ月にわたり出荷できるようにした。
可能にしたのがICTだ。青森や茨城、宮崎など主要な5ヵ所の提携農家の畑にセンサーを設置。そこから気温、湿度、日照時間のデータが1時間ごとに届く。これらと生産者が日々入力する栽培データを蓄積し、リコピンが一番多く含まれる収穫時期を予測する。
昨年11月、茨城にある畑のデータが例年より2週間早い収穫時期を示した。現地に収穫を促したが、生産者は「こんな早い時期に収穫したことはない」としぶった。掘り起こすと、既に大きく成長。地當(じとう)直哉専務は「あの時、2週間待っていたら規格外商品が多くできていた。気候変動が激しい今、暦よりデータがキーになる」と熱を込める。
リコピンニンジンは形ではなく、栄養価を基準に選別するため、出荷率が上がり、農家の経営安定化につながっている。三原洋一社長は「見た目で商品価値が決まる常識をくつがえし、もうかる農業をつくりたい。各地域が競争するのでなく、共感する地域と地域がつながれば強い農業が生まれる。ICTはそれを実現するツール」と話す。
写真=ICTの活用で全国の生産者と連携するNKアグリ
和大〜農家救う電動スーツ発売へ
今年10月、農作業の身体への負担を軽減する装着型ロボット「パワーアシストスーツ」の販売が始まる。「高齢化が進む農家の手助けに」と、和大産学連携・研究支援センターの八木栄一名誉教授が05年から開発に取り組んできた。
ベストのように着るロボットで、手袋や靴底に内蔵したスイッチで電源が入り、センサーが人の動きを感知。電動モーターが作動し、重い荷物の持ち上げと歩行、中腰での長時間の作業を支える。20㌔のコンテナを持ち上げる場合、10㌔の負担で済む。
開発当初は全身をがっちり覆うスーツで、重さ40㌔あった。着るだけで負担になり、作業にならなかった。農家の声を聞き試作を重ね、負担が最もかかる腰のサポートにしぼった。さらに素材や構造を改良し、6㌔まで軽量化した。今年から青森のりんご農家や徳島のれんこん農家など全国13県で試験的に導入。「急斜面の歩行に良い」「重い作物が楽に運べる」と評判は良い。
今後、女性や若者でも気軽に利用できるよう、さらなる軽量化とコストダウンを目指す。八木名誉教授は「高齢者の足になっている電動アシスト自転車ぐらい普及させたい。アシストスーツで農作業の効率が上がり、国内農業の競争力が高まっていけば」と願っている。
(ニュース和歌山2016年2月20日号掲載)