国の登録有形文化財と、将来登録が期待される建物の保存と活用を図る専門家「ヘリテージマネージャー」の活動が活発化している。和歌山でも建築士を中心に昨秋、和歌山ヘリテージネットワーク協議会が立ち上がり、2月14日に県建築士会が開いた郭家住宅(和歌山市今福)の見学会で来場者を案内した。中西重裕会長は「近現代に建てられた建物は地域の歴史や文化を伝える財産で、一度壊してしまうと戻すのは難しい。その価値を伝え、保存を図りたい」と話している。
築50年以上の近代建築は、戦災や高度成長期の開発で数多く姿を消したが、国は1996年に一定の価値がある物件の保存を図る登録有形文化財制度を創設。全国で1万件、県内は75ヵ所、201件が登録されている。
しかし、保存には課題が多い。登録されれば相続税や固定資産税が減額されるが、自己負担の維持管理費がかさみ、登録を取り下げる所有者もいる。また、地域の歴史を伝える未登録物件も多い。県や市町村の調査で把握している学校や銭湯、大屋敷など知名度の高い物件を除く、民家や工場といった個人物件は網羅できていない。専門家による価値付けがされないまま取り壊される例も多く、和歌山市では近年、新通の旧和歌山銀行や小説家、津本陽の生家(和歌浦)が姿を消した。
ヘリテージマネージャーは、これらの物件を守るため、未登録物件の発掘と文化財登録、所有者への支援と建物の活用を行う。文化財の歴史や修理、文化的景観について学ぶ講座を都道府県の建築士会が開き、60時間受けた人が活動できる。県内では講座が始まった2013年度以降、80人がヘリテージマネージャーとなり、未登録物件の図面起こしや歴史、特色の調査に取り組む。その1人、鈴木善仁さんは「防災や快適性、税金面からやむなく壊す人を多く見て来た。建物の保存と生活維持の両面から力になりたい」と意気込む。
昨年10月にはヘリテージマネージャーの連携を図る協議会が発足。2月14日に開かれた郭家住宅見学会は、登録有形文化財である歴史的価値を市民に伝えようとメンバーを中心に企画した。
郭家住宅は1877年に建てられ、文明開化の息吹を今に伝える洋館と、陸奥宗光の生家から移築したとされる数寄屋がある。約140年間、郭家が守ってきたが、所有者の郭一彦さんは「個人ではとても修繕が追いつかず、費用もまかないきれない。民間へ売却すると建物の保存が危うくなる」と、建物を残す道筋をヘリテージマネージャーに相談した。
見学会ではヘリテージマネージャーらが、建物の歴史や特徴を紹介。「建物に対して大きなベランダは、蒸し暑いアジアの気候に合わせた西洋人の工夫です」と解説し、訪れた450人は西洋と東洋の入り交じった意匠に注目した。
郭さんは「関心の高さに驚きました。これほど専門的な解説と発信は自分だけではできない」と喜び、「専門家と市民の協力で行政に保存を働きかけていきたい」と描く。
今後について、中西会長は「所有者を支えつつ、会独自の登録制度を設けて候補物件の把握を進める」。県文化遺産課は「他府県に比べ文化財の登録が進んでおらず、会と連携して地域の歴史を伝える建物を守っていければ」としている。
写真=専門家が建物の歴史や価値を市民に伝えた
(ニュース和歌山2016年2月27日号掲載)