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 希少な鯨のひげでアクセサリーを作る和歌山市出身の鯨工芸家、稲田浩さん(68)が3月16日(水)~21日(月)、ぶらくり丁のギャラリー半田で個展を開く。2015年11月の東久邇宮(ひがしくにのみや)文化褒賞の受賞記念で、「何十年も前に息絶えた鯨をブローチやペンダントなど装身具にして女性の胸でよみがえらせる。石にはない温かみと、黒から茶、時には金色に輝く色彩の奥深さを感じてほしい」と語っている。

 稲田さんは、雄湊小学校に通っていたころから、造船所で働く父の道具で木のブローチを作っていた。「美しいものが好きな子どもだった。お城の動物園のくじゃくが羽を開くまで何時間も待ったことも」と笑う。

 15歳で入社した印刷会社でグラフィックデザインに携わった後、20歳で上京し、ジュエリー作家の道へ。和歌山城で集めた玉虫や、そろばんのたまなどを素材に自由な発想で作り、全国の百貨店で個展を開いてきた。

 作家としての転機は26年前。個展で和歌山を訪れた際、板状のナガスクジラのひげに出合った。独特の素材感に魅了され、当時、国内で唯一、鯨のひげ板で工芸品を作っていた小柳佐喜男さんに1週間教えを受けた。この後、独学で研究を重ねた。2年前からは、奈良時代に鯨のひげで作られた正倉院の宝物「鯨鬚金銀絵如意(げいしゅきんぎんえのにょい)」の復元に取り組む。「生涯の仕事として命をかける」と稲田さん。途絶えゆく鯨工芸の技術を受け継いだ功績が評価され、昨年11月に日本三大宮様賞の一つ、東久邇宮文化褒賞を受賞した。

 今展では、2種類のひげを組み合わせた首飾りや、ひげに漆と天然石を合わせたネックレスのほか、和歌山城の玉虫とダイヤ、サファイヤのネックレスなど約200点を展示する。

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 商業捕鯨の禁止や、動植物の輸出入を規制するワシントン条約により、現在は鯨ひげの入手が困難で、稲田さんの手元には小柳さんから譲り受けた材料のみが残る。「昔から日本人は鯨を無駄にせず活用してきた。生き物の命を大切にする東洋人の精神性を伝えていきたい」と話している。

 午前10時~午後6時(最終日4時)。同ギャラリー(073・422・7779)。

写真上=作品を優しく見つめる稲田さん 同下=鯨のひげを使った首飾り

(ニュース和歌山2016年3月12日号掲載)