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 和歌山市郊外の市街化調整区域(※)にある農地の宅地転用を制限するため、市は7月、開発基準の強化条例を施行する。背景には、かつて基準を緩和した結果、新規開発の宅地が虫食い的に拡散したことがある。宅地として売却を考えていた農家には影響を受けるところもあるが、市都市計画課は「人が住み、買い物をする地区と、農業をする地区を分け、コンパクトシティを実現したい」との意向だ。

 市街化調整区域では、原則として新規住宅の建設はできない。例外として、農業者やその後継者の住宅、日常生活に必要な店舗は除外されている。また、5㌶以上の計画的な大規模宅地開発なら認められていたこともあるが、本来は開発が抑制されてきた。

 しかし、人口減と高齢化が進む上、岩出市、紀の川市での宅地開発により、和歌山市から両市への流出が顕著となったことが重なり、01年に基準の緩和条例を施行。05年にも大幅に緩めた。

 この影響は大きく、04年まで年間20〜30件だった開発許可件数が50〜70件近くに急増。しかも、開発は市の想定に反して集落の外へ外へと広がり、結果的に田や畑の中に何軒かずつ住宅が建つといった虫食い状態のところが増加した。

 宅地が農地内に点在してしまったことで市は方針を転換し、13年に基準を強化した条例を施行。しかし、予測したほど効果がでなかったことで、今回、さらなる厳格化に乗り出した。

 具体的には、200㍍以内に50戸以上の建物があれば集落の外側でも開発可としていた内容を、7月から「集落の内側に限る」と基準を厳しくして継続するが、来年4月に緩和基準自体を廃止。その代わり、小学校や文化会館などの公共施設、また、駅周辺については開発基準を緩めて、住宅や事業所の集中を図る。

 05年以降に増えた開発許可を今回の改正条例に当てはめると、半数前後が不許可となる。調整区域内で不動産業を営む男性は、今までの規制はかなり緩かったとした上、「宅地として売れないと、地権者の利益が損なわれる」と指摘する。

 一方、JAわかやまの坂東紀好(のりよし)代表理事専務は、「行きすぎた開発で田や畑の中に住宅ができたため、農業者が農業をやりにくくなった」と憂い、「持続可能な優良農地を守るのが大前提」と基準強化は当然との構え。先の不動産業者も「住宅過剰の中、緩和し過ぎると全体の価値が下がる。常識的な規制は必要」と理解を示す。

 こういった動きに、和歌山大学食農総合研究所長を務める大西敏夫経済学部教授は改正条例を評価しながら、「まず和歌山市が、こんな地域づくりをしたいというビジョンを示すべき」とし、「農地を守るためには支援策も出し、どうやって守るのかを、住民と合意形成することが重要」とアドバイスを送る。

 市は「駅や学校などの拠点施設周辺は人が集まりやすいよう規制を緩く、農地が広がるところは厳しくする。時間をかけ、じっくり取り組む」との姿勢だ。

 ※市街化調整区域=都市計画法に基づき、市街化を抑制する区域。自然を守るため、新たに建築物を建てることは原則として禁止されている。ただし、和歌山市ではこれまで、農地から宅地への転用が認められやすかった経緯がある。

(ニュース和歌山2016年4月9日号掲載)