〝日限(ひぎり)さん〟の愛称で親しまれる海南市鳥居の日限浄土寺で、約30年間開かれていなかったもち投げが4月24日(日)に復活する。最大で直径50㌢ほどあるもちを男性が激しく奪い合う「ケンカもちまき」とも呼ばれた行事で、かつては県内外から1万人以上を集めた。角豊光住職(56)は「今も参拝された年配の方からは『日限さんと言えばもち投げ』とよく聞きます。今年はもち500個と小規模で再開します。皆さんが寺に足を運んでいただくきっかけになれば」と願う。
明治時代初期に始まったとされるもち投げは毎年4月24日、健康祈願や厄よけのために行われた。周辺の道路は露店が並び、県内外から参拝客が押し寄せた。地元の郷土史家、平岡繁一さん(83)は「新聞には〝5万人〟の文字が書かれていたように記憶しています。ツツジがきれいな季節で、かつて周辺にあった田にはレンゲが咲いていた。なれ寿司を作り、よそに住む親戚を招いて、みな弁当を広げていましたね」。
平岡さんによると、やぐらを大人の男性が取り囲み、もちがまかれる度に激しい奪い合いが巻き起こった。「子どものころは怖くて、そんな様子を遠巻きに見ていました」。大人の部と別に、子どもの部を設けた時期もあった。
もちの製造を手掛けていたのは、近所の檀家で、みりんや焼酎、清酒を造っていた松本武一郎商店。武一郎さんの息子で、現在、寺の総代を務める雅博さん(69)は「もち投げの1週間ぐらい前から従業員や近所の方たちと準備し、私ももちをついたり、丸めたりするのを手伝いました。確か一度だけ、やぐらに上ってもちをまかせてもらいましたが、とにかくすごい人でした」と懐かしむ。
開かれなくなり約30年。角住職が京都から海南に来たのが2007年で、以前のまつりのにぎわいは直接知らないが、「今も安産祈願などで訪れた方のご両親だと、10人中9人はもち投げの話をされますね」。多くの人の思い出に残る催しの復活を決めた。
あすは午後4時から子ども向け、4時半から大人向けにもちや菓子投げ。かつてもちに賞品引換券を付けてまいていたことから、今回も1等から15等まで準備中だ。5時からはろうそくの明かりで境内を灯す一灯夜がある。角住職手作りのケーキと飲み物を味わえる「はくぼカフェ」(500円)も。同寺(073・482・0243)。
写真=中断される前のもち投げ。やぐらを大勢の参加者が取り囲む(浄土寺提供)
(ニュース和歌山2016年4月23日号掲載)