全国の小規模醸造所がつくる個性豊かなクラフトビール。和歌山では白浜町のナギサビールが知られるが、紀北地方でも新たなビール造りが始まっている。海南市の平和酒造は5月、ビール2種類を全国の酒販店を通じて販売。また、和歌山市六番丁の紀州応援酒場三代目は店内に醸造スペースを構え、仕込みを行っている。夏を前に、和歌山の新たなビール文化が盛り上がりそうだ。
1928年創業の平和酒造はビール造りに乗り出し、ビールブランド「ヘイワクラフト」を立ち上げた。入社6年目の醸造家、髙木加奈子さんが製造を引っ張る。
日本酒の仕込みは秋冬に行うため、閑散期の夏を生かそうと2014年3月に製造免許を取得し、8月に初醸造。昨年5月、大阪のイベントに初出品したのを皮切りに、これまではイベント限定で販売。県産甘夏を使ったビアカクテル風の夏みかんエールなど和歌山らしさを打ち出した商品などにも挑戦した。
いよいよ瓶での商品化にこぎつけたのは、ホップが効いたコクのあるペールエールと、オレンジピールなどを使い、すっきり飲みやすいホワイトエール。同社の日本酒「紀土」の仕込み水と同じ軟水の貴志川の伏流水を使い、まろやかに仕上げた。 髙木さんは「日本酒は飲みにくいと抵抗感がある人でも、ビールはみんなでわいわい楽しく飲める印象。クラフトビールはここ2、3年で再び大きなブームになっている。これから全国で和歌山発のビールを味わってほしい」と描く。
一方、お城近くの市街地にあり、観光客も多く訪れる紀州応援酒場三代目もオリジナルビールを生み出した。「旅行に行ったときはその土地のものが味わいたくなる。ここでしか楽しめないビールがあればと思いました」と吉田友之店主。
東京の醸造所に通いつめ、製造方法を学んだ。客席を改装して作業場を設け、150㍑の発酵タンク2基を設置。現在は吉田店主が東京で仕込んだビールを提供しており、3月に製造免許を取得後、今月から店内での仕込みを始めた。
ペールエールとフルーティーなヴァイツェンの2種類で、苦味や香り付けになるホップの量、酵母の種類などを変え試行錯誤しながら味を探る。ペールエールは口当たりを軽くするため麦芽の配合にこだわり、さわやかな柑橘系の香りのホップを使用した。
5月中旬には店内で初めて仕込んだペールエールがお目見えする。吉田店主は「飲み放題のメニューに入れており、7割の人が注文してくれます。同じものができないのが手造りビールの良さ。ノウハウを蓄積し、ビール好きを増やしたい」と力を込める。
昨年、ぶらくり丁で「クラフト×暮らふとビールフェス」を2度開いた小賀善樹実行委員長は「和歌山で日ごろから味わえる店はまだ少ないものの、イベントでは各回約4300杯売れ、予想以上の人気を感じました。柑橘や山椒など地元素材を生かしたビールが出てくればもっと面白くなるのでは」と話している。
写真上=ビール造りに挑む平和酒造の髙木さん 同下=店内に醸造所を構えた紀州応援酒場三代目
(ニュース和歌山2016年4月30日号掲載)