外国人旅行者の増加によるホテル不足を受け、手ごろな宿泊費で泊まれるゲストハウスが全国的に注目されている。和歌山市では1月、新通にゲストハウスRICO(リコ)がオープンし、さらに5月中旬には、ぶらくり丁にmacomo(マコモ)が誕生する。いずれも宿泊者を受け入れるに留まらず、和歌山のまちづくりに一役買いたい考えだ。
ゲストハウスは素泊まりで利用でき、2000〜4000円の低価格で泊まれる簡易宿所。営業には旅館業法に基づく自治体の許可がいる。一般的に、共有の水回りと一部相部屋のほか、宿主や旅行者同士で交流するロビーやラウンジがあるのが特徴だ。国内のゲストハウス紹介サイト、フットプリンツの編集長で、和歌山市に住む前田有佳利さんによると、全国には500軒以上あり、5年前と比べ2倍に増えている。
和歌山市でも今年に入り、2軒がオープン。1月開業のリコは、空き物件を改修してまちづくりにつなげるワカヤマヤモリ舎が運営する。入居者が減った築47年5階建ての共同住宅の一部をリノベーションした。最大37人が泊まれ、1階には受付とカフェやバーを兼ねたラウンジがある。
4月中旬までで国内外400人近くが宿泊。紀伊半島を自転車で巡る日本人の若者や、高野山から田辺への中継地として泊まる外国人らリュック一つで身軽な旅をする宿泊者が多い。オーストリアから来たジュリアン・ステファンさんは「おしゃれで清潔。スタッフも親切」と気に入り、京都で出会ったオランダ人の旅人を呼び、3連泊した。
宿泊だけでなく、旅行者や住民も参加できるもちつき大会やくん製料理パーティー、ヨガ体験といったイベントを開いている。橘麻里マネジャーは「海外からのお客様と地元の人で会話が弾み、『英語の勉強になり楽しい』との声も。高齢の方には『若い人の文化が知れておもしろい』と喜ばれています」と笑顔。
今秋には共同で台所を使い、食事の時間を共有するシェアキッチンをオープンする。宮原崇ジェネラルマネジャーは「新通の一人暮らしの高齢者や子どもが自然と集まる地域に開けた場所にしたい。出会いを通じ、それぞれの豊かさの種が育つ場になれば」と強調する。
一方、5月中旬にぶらくり丁の飲食店、石窯ポポロ2階に開業するマコモは、1日1組限定の小さなゲストハウスだ。3つの和室があり、部屋から商店街が見える。外国人をターゲットに、掛け軸や扉に和柄を施し、旅館を再現した。
運営は、ぶらくり丁で手作り市のポポロハスマーケットを毎月開き、空き店舗を改修してギャラリーやカフェにした紀州まちづくり舎。ゲストハウスも商店街の再生が目的だ。同社の三浦研祐さんは「飲食店やギャラリーがあり、宿泊者が店を巡れるのは商店街内ならではのおもしろさ。地方の商店街と手作りのゲストハウスで他にない安らぎを感じてほしい」と望む。
和歌山市には昨年、前年比1・8倍の10万7381人の外国人が宿泊した。ホテルや旅館の平均稼働率は79%で、繁忙期は宿泊先不足が問題になる中、ゲストハウスの需要も見込まれる。
前田さんは「地域の良さを発信するゲストハウスは『まちのコンシェルジュ』。思わずそこに暮らしたくなるような宿になれば、旅行者がより長く滞在し、ひいては移住につながるきっかけにもなる」と話している。
写真上=世界中からの旅行者に対応するリコの宮原さん(左) 同下=和風旅館を再現したマコモの部屋
(ニュース和歌山2016年5月7日号掲載)