幼児期に人権感覚を育てる参加体験型プログラム「みんな、たいせつ」。友だち同士や親子のふれあいを通して愛情や人の温もりを感じることを基本に、県人権啓発センター2011年から幼稚園や保育所で出張講座を開き、園では指導講師となった教諭らが日常的に取り入れる。プログラム作成にかかわった家本めぐみさんは「みんなの前で良いところを言ってもらうと自信になり、次は友だちの良い面を探せるようになります。今後は、小学生年代にも広げたい」と考えている。
「みんな、たいせつ」は、神戸大学の鈴木正幸名誉教授が提唱する「違いを違いと思わない感性=絶対人権感覚」を育むためのプログラムで、センターが2010年に開発した。自我がめばえる3〜5歳で取り組むのが最適とされ、思いやりやいたわりの心が生まれ、尊重し合える子どもを育てるのがねらい。
内容は17項目。ひざ枕、頭をなでる、心臓の音を聞き合うといったスキンシップから愛情や人の温かさ、リラックスする気分を感じさせる。良いところを互いに伝え合い、自信を持たせる。さらに、肌の色が違う子、病気やケガをした子の絵を見せ、違いがあっても同じところがあることを確認させる。さらに、保護者と一緒に自宅で取り組める項目も設けた。
センターは普及に力を入れており、これまで幼稚園、保育所など57ヵ所で出張講座を実施し、2200人近い園児が受講。また、幼稚園教諭や保育士向けの講師養成講座は、350人以上が修了した。センター啓発指導員の下平菜都子さんは「自分の気持ちや、友だちの良いところを話せるようになったと報告を受けます」とほほ笑む。
開発時からかかわりの深い芦原幼稚園は、日々の保育に取り入れる。都築智子教諭は「すぐに効果は出ませんが、感想を聞くと『気持ちよかった』『うれしかった』と答えるなど、大事にされていると感じるようです」。尾㟢英隆教諭は「けんかの時、自分はどう思うか、状況を考えた上で『そこまで怒るほどではない』と気づくこともあります」という。
一方、小学生に実践する人もいる。御坊市の学童保育所湯川子どもクラブ指導員の池﨑安基男さんは「小学生だと相手の気持ちをくみ取ることができますから、困っている時には、それに応じたプログラムを行った上で、気持ちをたずねます」と活用法を説明。和歌山市古屋と梶取で出張託児なないろサポートを運営する林明子所長も2年前から幼児、小学生を対象に行い、「体を使ったプログラムだと、取り組み内容を理解しやすいと感じました」と分析する。
鈴木名誉教授は3〜5歳での取り組みに最も効果があるとするが、講座後のアンケートには、小学生向けや発達課題を抱える子ども向けプログラムがほしいとの回答が一定数寄せられる。下平啓発指導員は「小学生向けなどの作成は今後の課題」と受け止めている。
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講師養成セミナー…6月16日(木)午前10時〜午後4時、紀の川市粉河の粉河ふるさとセンター。無料。県人権啓発センター(073・435・5420)。
写真=参観日には親子がふれあいながらプログラムを実践する(芦原幼稚園)
(ニュース和歌山2016年5月14日号掲載)