和歌山は人口当たりの喫茶店数が全国3位、中でも個人経営の割合は1位なのをご存知ですか? 確かに見渡せば、何十年も変わらぬたたずまいで愛される昭和の名喫茶が町にはたくさんあります。和歌山市で40年以上営業を続ける2店を訪ねました。
ノッティパイン 一人になれる場所
日赤病院近く、結婚1年目の夫婦が開いたノッティパインは今年で41年目。二人三脚で店とともに歩むマスターの野上清さん(68)、美津子さん(66)が迎えてくれる。
カウンター8席、ゆったりと座れるテーブル席は9卓あり、ワンフロアながらなかなかの広さ。天井が低めで傾斜があり、木がふんだんに使われた店内は、どことなくロッジのような雰囲気が漂う。
和歌山大学が高松と吹上にあったころは学生や教員が多く訪れた。「私もまだ若かったから、お客さんが見守ってくれているような感じでした。素人っぽさが受けたのかな」と清さん。何十年と通う客は少なくない。
コーヒーはサイフォンで抽出し、なめらかで酸味の少ない味。豆をひく良い香りが店を満たす。中でも客席でサイフォンから氷に注ぐアイスコーヒーは、冬でも人気だ。
カウンターには常連客が代わる代わる座り、会話に花を咲かせる。清さんは「今は仕事中に喫茶店に寄れば『サボっている』と言われる、世知辛い世の中。喫茶店は憩いの場でもあるし、周りに人がいたとしても一人になれる場所。私も店が一番落ち着きます」。
ノッティパインの意味は「節のある松」。その名の通り、古びるどころか、時を経るごとに深い色合いになっていく。
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和歌山市吹上2─4─4。午前8時〜午後7時半。☎073・423・0844。月2回、日曜休み。4日から営業。
喫茶 小紋 他で味わえぬ喜び
県庁南別館そばにある小紋のランチタイムは慌ただしく、「この1時間だけは集中力が高くなります」と店主の滝口三恵子さん(82)は笑う。食事メニューは全て自家製で、中でも人気は焼きめしとカレー。滝口さんが調理場に立ち腕をふるう。
子育てに追われながら1968年に店を始め、気付けば来年で半世紀になる。今では時々、社会人になった3人の孫が顔を出してくれる。
画材店や画廊がそばにあるおかげで、昔から地元画家の来店が多い。和歌山の風景、ヴァイオリンを弾く少女と、ひとつずつ違う作者の作品が、店にささやかな変化を与え続ける。「色んな先生の作品を見続けてきて、私も少しずつ目が肥えてきた気がしますよ」と滝口さん。
創業時から使い込み、店の雰囲気をグッと印象づける木目が美しいテーブルセットは、味わいある色をほめられることが多くなった。ランチタイムが過ぎれば、再びゆったりとした時間が流れ出す。
50代半ばから20年以上ジャズダンスを続け、体力には自信があるが、いつまで店を続けられるか心配する声も聞こえてくる。「店は生きがいで、やめるときが想像できない。『まだやってたんやぁ』と言って来てもらえた時がうれしくて、『しぶとくやってるで』と返すの。長年続けたからこそ、他では味わえない喜びですね」
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和歌山市湊通丁南2─40。午前8時〜午後5時。☎073・436・4887。日曜休み。4日から営業。
(2017年1月3日号掲載)