「地域活性化」というと難しく聞こえますが、自分らしいスタイルで地域とかかわり、暮らして楽しい場所にしようとする、ゆるやかなまちづくりの機運があります。今回は市街地で活動する若者女子4人を紹介します。
暮らす楽しみ探して 林郁絵さん(30)
「嫌いだった和歌山が大好きになった。やっと『和歌山が私の地元です』と言える感じです」。一昨年に和歌山市の郊外から中心地へ引っ越したのをきっかけに、様々なまちづくりに携わり始めた。
兵庫の大学を卒業後、和歌山にUターンし、管理栄養士として働く。地元に目を向けることなく、週末は友人と大阪で買い物、長期休暇は海外旅行へ。2015年秋、バリである思いがよぎった。「なぜ飛行機で7時間もかけて癒やされに行き、和歌山と似た景色に感動するんだろう?」
和歌山が好きになれないのは和歌山を知らないからかも──。自転車で様々な店やイベントに行きやすい中心地に引っ越し、若手経営者や学生でつくる団体「3℃」やぶらくり丁のクラフトビールフェスの実行委に加わった。遊休不動産の活用を学ぶリノべーションスクールなどのワークショップにも足しげく通った。
面白く感じるのは、地方都市ならではのコンパクトさ。「中心地にはいい店がたくさん集まっていて、川や古い建物などあるものを生かした店は、地域とつながっている感じがする。意欲的な人と出会いやすく、一人でできないことでもみんなでできる」
そんなまちの楽しみ方を発信しようと、現在はネット配信のニュースサイトのボランティアライターも務める。「住むまちに興味を持つ仲間ができれば、もっと面白くなる。都会にはない、クセになるような楽しさを探してほしい」
次代担う子どもたちへ 永原彩加さん(28)
子どもにぶらくり丁の思い出をつくってもらい、「将来、ここで店を開こう」と考える人が出るとうれしい──。2011年から、和歌山市のまちづくり拠点、ぶらくり丁「みんなの学校」スタッフとして、イベントの盛り上げに走り回る。
同年夏、「本物の店で商売を」とキッズ商店街を企画。魚屋、八百屋体験を手始めに、昨年は和菓子作り、宅配など27職種に広げた。
2回目から携わったハロウィーンイベントにも力を入れる。各商店に菓子を配ってもらうよう依頼。まちを巻き込むと、今では子どもと親世代にすっかり定着した。
さらに、「〝ぶらくり〟の意味は」「通りにある坂の名は」と、地元密着の謎解きゲームを提案。商店街にヒントを掲げると、ねらい通り、喜んでまちを巡ってくれた。
東ぶらくり丁の老舗茶屋、諏訪園が実家。店周辺がさびしくなることに心を痛め、09年夏、1人で出店者を募り、手作り市&フリーマーケットを始めた。その後、みんなの学校で働き始め、共に取り組むことに広がりを感じた。「地元だからこそ見え、逆に分からないことがある。スタッフと協力して中心街全体を活性化しよう」と、まちを舞台に次々とイベントを打ち出す。裏方は、高校の生徒会からお手の物だ。
「商店街のにぎわいは、若い人が戻ってこそ。次代を担う子どもたちに、まず、このまちを知ってもらいたい」。思いを胸に、今年も走る。
顔の見える関係が魅力 腹巻紀子さん(20)
和歌山大学でまちづくりを学ぶ学生を中心に、年に数回、ぶらくり丁で開かれるカフェ「With」。このカフェの運営にあこがれて、和歌山大学経済学部に進学した。3年になる今年4月から本格的に活動を引っ張る。「Withは思いを形にできる場。お客さんが求める以上のものを提供し、市街地活性化と自分たちの学びにつなげます」と意気込む。
喫茶店巡りが趣味で、自分の店を持ちたいと考えていた高2の時、Withを知った。学生の理想を実現できるカフェにひかれ、大学まで足を運びスタッフを志願した。手伝うと、Withが多くの大人の準備や協賛金で支えられ、期待を集めていることを知り、まちへの興味も生まれた。
大学入学後は、ぶらくり丁の空き店舗をリノベーションした飲食店、石窯ポポロでアルバイト。店の装飾や新商品の試作など店作りにかかわる中で、「自分の考えやセンスを形にできる」と個人店に魅力を見つけた。「何もないと思っていたぶらくり丁に、最近は新しい店が増えてきた」と変化に楽しさを感じる。
月に1度、アーケードはマーケットでにぎわうが、翌日には元の閑散とした通りに。活性化の難しさを感じる一方、商店主や客から声をかけられることが多くなった。「顔が見える関係が商店街の強み。つながりを生かし、学生と地域の大人が力を合わせれば新しい可能性が広がる。より良いWithに変えていきたい」と決意を新たにする。
和歌山らしさ ブログで発信 長戸千紘さん(23)
こんな呼びかけで初回が始まったブログ「ワカヤマチック」。常連客を大切にするぶらくり丁の純喫茶や、和歌山市駅近くで見つけたおしゃれな古着店といった何気ないまちの風景を独自の視点で発信する。「和歌山はこんなに面白いってことを住んでいる人にこそ知ってほしい。まちを楽しむ視点を届けたい」と心を込める。
出身の兵庫から大学進学を機に和歌山へ。和歌山大学観光学部の地域再生学科で学ぶが、第3者目線での地域とのかかわりに物足りなさを感じていた。3年の時、ぶらくり丁でクラフトビールのイベントを開いたり、中古ビルを改装して宿泊施設にしたりとリスクを負ってでも再生に情熱を傾ける人たちに出会った。「当事者としてかかわりたい」と一昨年、1年間の休学を決意。市の中心部へ移住し、まちづくりに関心のある人が集まるシェアキッチンで働き始めた。
市街地に飛び込んで気づいたのは、そこに住む人や日常にこそまちの魅力が隠れていたことだ。これらを「分かりやすく発信し、地元を好きになる人が増えれば」と昨年8月、友人と2人でブログを開設。タイトルは"和歌山らしさ"を表す「ワカヤマチック」にした。
ブログでは、和歌山を好きになれない和歌山生まれの若者を連れ出し、街歩きをレポート。和歌山城が見える神社や趣あるレンガ造りの建物を発見し、若者が魅力に目覚める様を記した。また、純喫茶で見つけた昔のぶらくり丁の写真を持ち出し、現在と比べる企画も掲載。大正時代から続く七曲市場を潜入取材して記事にするなど、出会った人々の思いとともに和歌山らしさとは何かをつづる。
開設から半年。気取らない文章でありのままを伝えるブログに反響が増え、回を追うごとに更新に熱が入る。「外の人に来てもらうには、中の人がこのまちを面白いと思わないと」。今年3月の卒業後も市街地に住み、"和歌山らしさ"を探り続ける。
(2017年1月3日号掲載)