美しい鳥の鳴き声を聞き分けられたら…。長年ぼんやりとそんな憧れがあった。酉年を迎えた今年、ならば少しだけでも鳥に近づいてみようと、以前から気になっていた日本野鳥の会県支部の探鳥会へ赴いた。場所は紀伊風土記の丘、さて鳥たちの姿から垣間見れたのは…。いざ冬の山林へ。

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飛び交う鳥たち追えず うろたえ

 午前9時、風土記の丘駐車場に集まったのは32人。初参加者には双眼鏡を貸してもらえる。県支部長の中川守さんから「太陽を見ないように」と注意を受け、使用法を教えてもらう。

 快晴のもと出発し、最初は風土記の丘資料館北側の小高い丘へ。樹に囲まれたポイントで、立ち止まる参加者からは「あ、エナガ!」「ヤマガラ!」「メジロ、メジロ」と次々と鳥の名前が飛び交う。皆、双眼鏡やスコープを的確に向ける中、あわてて双眼鏡をのぞくが、鳥の姿がレンズに収まらない。肉眼で鳥の姿を確認し、何度も双眼鏡をのぞくが、姿がない。ただうろたえるばかり。

 「シメが見えますよ」。固定型のスコープをのぞき込む人が声をかけてくれた。キツネ色で、尾の短い鳥が餌をついばんでいる。「あ、見えた!」。スズメやハト、分かってヒヨドリ程度の筆者にその姿は愛らしく、彩りの豊かさにときめいた。

目だけでなく耳で見つける

 上手く鳥の姿をとらえられない中、同会の清水啓子さんが高々と樹々がそびえる一本道に連れて行ってくれた。「コゲラの木をつつく音、ドラミングが聞けますよ」。コゲラ(写真上)は日本で最も小さなキツツキで、身近な所にいるという。

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 「ギーという声が聞こえるから注意して」とアドバイスを受け、耳を澄ます。他の甲高い鳥の声が響きわたり、分からない。低く「ギー」と聞こえた気がした。「あ、今のです。いますよ」と清水さん。続いてはっきり「ギー」の声が。高い枝を縫うように姿を現した。双眼鏡を枝ぞいに走らせ、なんとか姿をキャッチ。木をくちばしで突き始めると、トントントンと低い音が鳴る。とても耳に心地よい。こげ茶色の背中に白い点の模様も見えた。

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 清水さんは「声で探すんですよ」。杉田尚志さんは「イカル(同下)なら『みのかさきー』『おきくにじゅうしー』と鳴き声を人の言葉に言い換え覚えます。これを〝鳥の聞きなし〟と言います。耳で見つけるんですよ」。バードウォッチング、リスニング力が命のようだ。

 

未知の世界見える喜び

  その後、池で水鳥のキンクロハジロが悠々と泳ぐ姿、山あいではノスリが高らかに飛ぶ姿も見ることができた。

 高い枝に巣を発見し、「何の巣かな」と一同が見上げる。すると、野鳥の会での活動歴50年に及ぶ森下次郎さんが「カワラヒラだと思う」と言い、「最近は木ではなく新建材で巣を作る鳥が増えているけど、ウグイス、コマドリ、オオルリだけは新建材で巣を作らないんですよ」と解説も加える。

 森下さんは定年退職後、生石山標高500㍍の所に居を構え、鳥とふれあい、木彫りの鳥の彫刻、バードカービングに打ち込む。「地球上の生き物で、鳴き声、色、姿と鳥が最も美しい。鳥好きが高じ山で暮らすようになりました」。個性的な人が多いが、鳥への愛は皆同じように深い。

 歩くこと約3時間。山から下り、最後に全員で「鳥あわせ」を行う。ハクセキレイ、ムクドリ、アオサギ、ヒヨドリ、ヤマガラ、キジバト、エナガ、ツグミ…と出合った鳥を読み上げる。この日は計32種類だった。支部長の中川さんは「模様、羽の一枚一枚とよく見ると、発見、驚きがあり、知らない世界が見えてくる。経験を積むと、鳥は食べ物、高度などですみ分けているのが見えます。本当に奥深く、子どもたちにぜひ知ってほしい」と望む。

 初参加の筆者が目にできたのはシメ、コゲラ、キンクロハジロ、ノスリ、モズとわずか。それでも多彩な鳥の姿から、生命の豊かさ、自然の奥深さの一端をのぞくことができた。(2016年12月18日、髙垣善信)
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 同会県支部や探鳥会の予定は同県支部、中川さん(073・444・4554)。

(2017年1月7日号掲載)