江戸時代、紀州藩に保護された天台宗安楽律院派の寂光院(和歌山市松江中)。長年、宗教活動ができていなかった寺を再興するため、庫裡(くり)を含む約半分の土地が今夏、売却される。住職が暮らした昭和建築の庫裡は重厚な造りで、建築関係者の目に留まり、移築先を探している。不二澄順住職は「寺を守っていく上でやむを得ない。建物の引き取り先が見つかればありがたい」と望んでいる。

 1933年に建てられた庫裡は本瓦葺き、入母屋造りの平屋建て。天井は3・3㍍と高く、床の間は高貴な客を迎えられる御殿風の造りで、1916年に皇太子へ作品を献上したことのある日本画家、黒住章堂の花鳥風月や猛虎などの襖(ふすま)絵を54枚をしつらえていた。

 同寺は檀家を持たず、藩の支援があった江戸時代が終わると衰退し、伽藍(がらん)の大半を失った。昭和初期に同地区の伊藤尋流和尚の支援で再興し、庫裡が建てられた。昭和末期まで「ぜんそく封じ」を行っていたが、宗教活動はほとんどなく、2014年に先代住職の小谷雅紹(まさつぐ)さんが他界。紀の川市粉河にある同宗派で十禅院の不二さんが住職を兼務することになったが、顔を出せるのは月数回だった。今回、社務所を整備し祈祷寺として寺を存続させようと、財産の整理に着手した。


 庫裡の保存は、現在も寺を管理している小谷さんの妻、三恵子さんが襖絵を残そうと県に相談したのがきっかけ。襖絵は和歌山市立博物館で保管されているが建物の価値を調べ、記録を残そうと、歴史ある優良建築の保存に取り組む建築士らのヘリテージマネージャーが建物の図面起こしを進めている。三恵子さんは「お客さんが来た時、襖絵の虎に子どもが驚いて怖がりました。奥の間はめったに入ることを許されませんでしたが、思い出の詰まった建物です」と語る。

 8月末までに売却先を決める予定で、建築関係者が建物の保存法を模索している。建築士でヘリテージマネージャーの中西重裕さんは「近代以降の建物だが、地域の歴史の一部を担い、良質の杉をふんだんに使った建築レベルの高い建物。移築して保存するのが望ましく、それだけの土地と費用を負担できる人を探したい」。不二住職は「価値ある建物だが、売却して寺としての機能を再開させ、寺を存続させることを優先したい」と話している。

 移築先の情報提供は和歌山県建築士会(073・423・2562)。

写真上=小谷三恵子さん(左下)の立ち会いで調査を進める 同下=昭和初期建築の庫裡

(ニュース和歌山/2017年7月15日更新)