イトミミズの生態を生かした汚泥処理の新技術を、和歌山県が下水処理施設に取り入れ、今秋から3年かけ効果を検証する。県工業技術センター(和歌山市小倉)が民間業者と共同開発した技術。和歌山特産のパイル織物を処理施設中に沈めてイトミミズを増やし、汚泥のもととなる微生物を食べさせる。すでに食品加工場、化学工場での実験で成果を上げており、県は下水への活用で結果を出し、和歌山発の新技術として全国発信を狙う。
排水処理施設では、微生物を活用し、有機物を分解する生物処理が広く行われている。ただ、この方法では、微生物は増え続け、最終的に余剰汚泥として処理が必要となっていた。ミミズは処理施設では発生しにくく、定着も困難だった。
これを可能にしたのは和歌山特産のパイル織物。主に衣料やじゅうたんに用いられてきたパイルをイトミミズのすみかとして処理施設中に沈める。イトミミズは排水にかかわる食物連鎖の最上位で、微生物を食べるため、温度、成分の調整で増殖を促すほど余剰汚泥を抑えられる。県工業技術センターの山際秀誠(よしのぶ)主任研究員は「ミミズは普段は酸素が少なく、それでもすぐに酸素を吸える環境を好む。25〜30㍉と毛足の長いパイル地は最適のようです」とみる。
梅干し工場での実験では、排水1㌧あたり6・5㌔発生していた余剰汚泥が、1㌔と大幅に減少した。2015年に特許を取得し、これまで県内の食品関連工場6ヵ所が導入。年70〜85%の削減を実現し、年間1000万円のコストカットを果たした例もある。
2016年からは花王和歌山工場が化学工場として初めて実験に協力している。食品工場の排水は植物から生まれた有機物だが、化学工場の場合、油脂系、洗剤を含む活性系の排水のため、ミミズが生きていけるか分からなかった。結果は通常の生物処理と比較し、80日で80%減らせ、化学工場でも使えると分かった。花王技術開発センターは「実験を通じ、技術の裾野を広げられました。また20〜30度がミミズが増える水温と分かり、生物処理設備での活用が有効に思えます。国内外5ヵ所の工場で実証を終えており、実設備の展開を検討しています」と語る。
秋から下水施設で実証実験
これらの成果を受け、県は那賀浄化センター(岩出市)にこの技術によるプラントを建設中だ。秋に稼働させ、3年で効果を検証する。同センターでは昨年度約1000㌧の汚泥を排出し、処理コストに1700万円を要している。県下水道課は「下水は、泥、砂など分解できない固形物がまじり、これまでとは違う課題がある。汚泥とコストを減らせるかを工夫をし、全国発信につなげたい」。山際研究員は「排出する水質を現状と変わらないものにするのが大前提。パイルの活用促進になるため実用化を果たせれば」と望む。
共同開発者も注目する。オーヤパイル(橋本市)の大家健司社長は「衣料などの用途が手詰まりの中、産業用資材として可能性が広がりつつあるのは喜ばしい。下水で結果が出れば、パイル産業全体にプラスになる」。この排水システムを取り扱うエコ和歌山(田辺市)の中田祐史社長は「汚泥は産業廃棄物で処理に費用がかさむ。既存施設を改修した工場の場合、早くて2年、数年でペイできる。まずは県内で展開したいが、最近は海外展開の話もあり、今後を期待しています」と話している。
写真=パイル織物による浄化の仕組みを語る山際研究員
(ニュース和歌山/2017年7月29日更新)