和歌山市立こども科学館が12年続ける和歌山城のセミの生息調査で、今夏、開始以来初めてクマゼミの数がアブラゼミを超えた。かつては南日本に住み、「セミの王様」と珍しがられたクマゼミは近年、気温の上昇とともに都市部で増加。それでもお城の森では、アブラゼミが多く、森の環境が良好に保たれている証と考えられてきた。調査での逆転に同館担当者は「気候が原因とみられるが、調査を続けないと分からない」と複雑な表情だ。
調査初 アブラゼミ上回る
アブラゼミは体長5・5㌢程度で、赤褐色の羽に油がしみたような模様が特徴。国内に広く分布し、「ジリジリ」と鳴き、最も一般的なセミとされてきた。一方のクマゼミは本来南日本に住む暖地性のセミ。体長6〜7㌢と大きく、羽は透明で、「シャンシャンシャン」と鳴く。ここ数十年の気温の上昇で生息の北限を関東に伸ばす。2004年度〜07年度の大阪府の調査では大阪市内でクマゼミが88・6%、アブラゼミが7・6%とクマゼミが9割近くを占め、クマゼミは温暖化の象徴とみられるようになった。
こども科学館の調査は05年から家族参加の催しとして実施。伏虎像の周辺約50㍍×30㍍の範囲で、幼虫のぬけがらを探し、種類を調べる。
調査開始翌年、アブラゼミの283個にクマゼミが196個と近づいた以外は、アブラゼミが6〜8割を占め続けた。ただ昨年は682個中、アブラゼミ436個、クマゼミは241個とクマゼミに微増がうかがえた。
3年前まで並行し調査していた城北公園(現・伏虎義務教育学校)ではクマゼミが多く、アブラゼミが上回ったのは一度だけ。2013年はクマゼミ245個とアブラゼミ95個とクマゼミが最も大きく上回った。
写真=ぬけがら調査の様子
原因は温暖化? 環境の変化?
「クマゼミの幼虫は公園のような乾いた地面でも土を掘れ、都市環境に強い。アブラゼミは、森の環境が良好に保たれた湿った所でないと育ちません」と調査を担当する土井浩事務長。城と城北公園の対比は、それを示すものだったが、今年8月6日のお城の調査では531個のうちクマゼミ350個、アブラゼミ178個と逆転し、クマゼミが全体の6割を超えた。土井事務長は「樹の種類は変わっておらず、考えられるのは春が寒く、少雨だった気候の影響。これが続けば環境の変化と考えねばならなくなる」とみる。
和歌山県自然環境室の岡田和久室長は「岩出市の根来山は大半がアブラゼミで、ニイニイゼミからツクツクボウシまで鳴き声が移り変わる。市街地の印象からすると、お城にはまだこれだけアブラゼミがいるのかという感じ。森は保たれているのだと思いました」と語る。
和歌山県立自然博物館の松野茂富学芸員は「生物の数や分布は常に変動し、それ自体はネガティブな事ではありません」としたうえで、「クマゼミの増加はヒートアイランド現象を背景にした地面の乾地化が大きいのでは」と推論。また、薬剤の影響、硬さと少しのことで土壌は変わり、常に安定した状態でない点を指摘し、「多く発生するのは、クマゼミを減らす要因が弱くなったとも考えられます。ぬけがらは身近にあり、生物と環境を考える格好の教材。逆転の理由をみなさんにも考えてほしい」と呼びかける。
「30年ほど前まではとれたら自慢できた」(土井事務長)というクマゼミの強い勢力。お城の森は、アブラゼミの市街地最後の砦(とりで)であり続けられるだろうか。
写真=増えつつあるクマゼミ
(ニュース和歌山/2017年8月26日更新)