海南特産の紀州漆器と先端技術を組み合わせた新ブランド「KISHU+」が立ち上がった。地元5社がコラボし、9、10月に東京で展示会を初開催。2018年1月には〝インテリア業界のパリコレ〟と言われるフランスの見本市へ出品する。伝統の技を生かしながら、デジタル技術を駆使した〝先端工芸〟がコンセプトで、取り組みを進める山家漆器店の山家優一さん(29)は「漆器の新しい可能性を開き、産業の盛り上げにつなげたい」と意気込む。

伝統の技と最新技術生かす

 9月29日~10月1日、東京の渋谷ヒカリエで開かれた展示会「紀州漆器 KISHU+『手仕事×機械仕事×デジタル仕事』」。一見、線で模様が描かれた箱だが、ある角度から見ると図柄が浮かび上がる「SAKKAKU」、ヤスリで研ぎ出す技法でアルミ素材と塗り部分の縦じまを立体的に見せた一輪挿し「SHIMA」など10点が並んだ。「旅館で使いたい」「別の素材も塗れないか」と問い合わせが相次いだ。

 室町時代から続く漆器の産地、海南は全国4大産地に数えられ、木地のプラスチック化やスプレー塗装など、時代ごとに新しい技術を取り入れてきた。しかし、近年は職人の高齢化と売り上げの減少で、漆器組合の加盟社は1995年の254社から現在は半分の123社に。昨年、島安汎工芸製作所、中西工芸、若兆、山家漆器店、橋本漆芸が従来の枠にとらわれず、現代に合った工芸を探ろうと立ち上がった。

 キーワードは「先端工芸」。東京のデザイン会社、タクト・プロジェクトのデザイナー、吉泉聡さん(36)とコンセプトを練った。漆器が育ててきた技術に注目し、目的や用途に応じて機械加工やデジタル技術を組み合わせて漆器産業の可能性を広げようと考えた。

 漆器職人が心がけたのは、デザイナーのアイデアに全て挑戦すること。素材やコスト、仕事方法など職人の世界では「不可能」とされてきた点に切り込んだ。デジタルペイントや3Dプリンターを取り入れ、職人の手仕事とデザイナーのセンスを共に生かした。中西工芸の中西拓士さん(40)は「金属や鏡と、今まで塗ったことのない素材の面白さを知れました」。

 ランプシェード「SHIZUKU」は照明の光を反射させる要素として蒔絵を用い、かさの内側に施した金の蒔絵で拡散した光が柔らかい。ろうそく台の表面に波の形を施した「MINAMO」は、ろうそくを中心に波紋が広がるデザインで、つややかな漆黒の塗りに炎の光が揺らめく。いずれも自信作で、吉泉さんは「手仕事、先端技術それぞれ単独でたどり着けなかった表現を目指しました」と語る。

 これらを2018年1月19日~23日、パリで開かれる見本市「メゾン・エ・オブジェ」へ出品。山家さんは「フランスを拠点に海外販路を開拓したい」。若手の活躍を見守る橋本漆芸の橋本洋二さん(66)は「作り方や用途が変わり、新たな顧客を広げる商品が誕生した。パリでの出品は漆器産業の方向性を示してくれるはず」と期待している。

写真=漆器の新たな可能性にかける若手職人ら

(ニュース和歌山/2017年11月18日更新)