20〜40代 増えるファン
J─POPの恋愛ソングに合わせ、レースの着物で舞う劇団員。わき上がるのは若い歓声──。大衆演劇といえば高齢者の娯楽とのイメージだが、近年、20〜40代の女性ファンが全国的に増えている。SNSでの情報共有と、座長の世代交代による若返りが背景にあると考えられる。県内で10年以上営業する2つの劇場にも毎日通う熱烈な若いファンがいる。
海南市且来の劇場すわん江戸村。4月1日の昼公演には、幼い子を連れた母親や、友人と訪れた若い女性の姿があった。幕が上がると、扇子を手に優雅に舞い、流し目でポーズを決める劇団員に声援を送り、スマートフォンや一眼レフカメラでシャッターを切る。
この劇場は劇団紀州が2003年に開設し、週5日の公演をこなす。立ち上げから約10年間、客席を埋めるのは高齢者ばかりだったが、5年ほど前から40代以下の女性が増え、土日の昼公演は全98席のほとんどを若い世代が占めることもある。
「お遊戯会で行う日本舞踊の勉強のため、1年半前に見たのが最初」と話すのは幼稚園教諭の太田早紀さん(26)。「かわいい着物で踊る写真をSNSにあげ、ファン同士で共有します。他の人のツイッターを見て他の劇場へ行くことも。平日夜を含め、毎週5日通います」。2年前から足を運ぶ37歳女性は「SNSを使うのは若い世代が多いですが、70代の観劇友達に『ツイッター見たで』と劇場で声を掛けられることもありますね」。
SNSが若者を引き寄せるきっかけになっていることから、劇団紀州は昨年6月に公式ツイッターを開設。公演情報のほか、劇団員がポーズを決めた写真を発信する。
07年にぶらくり丁に紀の国ぶらくり劇場を開いた村野一彦さん(55)も「ここ5年は、毎週足を運んでくれる若い女性が50人以上います」。3月に出演した劇団武るの三条すすむ座長(47)は「公演で日本中巡っていますが、若い人への広がりは全国的な動き。大阪では学校帰りの高校生もいましたね」と話す。
ぶらくり劇場では1年間に12劇団が公演するが、この3分の1は座長が30代前半までと若い。村野さんは「若いファンの増加の背景には座長の世代交代がある」と見る。
20〜30代前半の劇団は現代風にしたダンスの振り付けやライトでの派手な演出、きらびやかな着物を取り入れ、中にはJ─POPを中心に公演する劇団もある。これが若い層を引きつける。2年間、毎週通い続ける有本幸子さん(42)は「ヒョウ柄やオリジナルのはっぴなどの衣装にひかれました。近くで見れて話や握手、一緒に写真を撮れるのも魅力。劇団鯱にいる20歳の兜(かぶと)獅子丸若座長がお気に入り」と目を輝かせる。
全国で若い世代に広がる大衆演劇。劇団紀州の市川昇次郎代表(71)は「若い人は古いものでも目新しく感じる。芝居には和歌や俳句に使われていた言葉を使います。楽しみ、息抜きしてもらうと同時に、美しくもなくなりかけている日本語を後生に伝える役目も果たしたい」と力を込める。
写真=劇団紀州の公演後に劇団員と談笑する若い女性
(ニュース和歌山/2018年4月7日更新)