サクラやモモ、ウメなどバラ科の木につき、食べ荒らす特定外来生物クビアカツヤカミキリの侵入に和歌山県は警戒を強めている。中国やモンゴル原産で、日本では2012年に愛知で確認、昨年7月には県内で初めて見つかった。幼虫が樹木内部を食べ枯死させ、県外では桜並木の伐採に及んだ例があり、モモやウメの大きな産地を抱える和歌山への侵入は避けたいところだ。成虫が現れ始める6月を迎え、県は関係機関と情報網を築き、目を光らせている。
モモ・ウメ・サクラの大天敵〜花見スポットも要注意
クビアカツヤカミキリは中国やモンゴル、朝鮮半島、台湾と広く分布する。体長は4㌢までで、全体的に光沢のある黒色をしており、頭の下の前胸が赤く、突起があるのが特徴。オスは体より長い触覚を持つ。
愛知で見つかって以後、埼玉で続いて確認され、15年には東京、群馬、徳島、大阪と広がり、これまで7都府県で発見。今年1月には特定外来生物に指定された。
和歌山では昨年7月31日、かつらぎ町の農地近くの車にオスの成虫1匹がついていたのを捕獲した。周辺農地に幼虫の痕跡はなく、県自然環境室は「ここで育ったのか、大阪から来たのかは分からない」と言う。
強い繁殖力は脅威で、大半のカミキリは1回の産卵で50〜100個だが、このカミキリは100〜150個と多い。幼虫は2〜3年、木の内に留まり、食い荒らすため、複数の幼虫が1本の木に入ると、枯死させてしまう。徳島では15年のモモ、ウメ園の調査で864本中130本、翌年は1178本中256本の被害が判明。全滅したモモ園も出ている。大阪では昨年、モモ園80ヵ所を調査したところ6割で被害樹があった。大阪都市部の公園でサクラを調べた和歌山県職員は「二十数本のうち3分の1に幼虫がつき、対応が追いついていないと感じた」と話す。
モモ、ウメの産地を抱える和歌山での危機感は強く、県自然環境室は道路、森林、河川、公園管理の担当部署と連絡体制を整備。岩出市、紀の川市、かつらぎ町、橋本市で対策説明会を実施し、発見した場合、迅速に処置できる態勢を組んだ。
また県果樹試験場かき・もも研究所は今春からモモ園で月1回の調査を開始。同研究所の弘岡拓人研究員は「今のところ気配はない」。サクラには防除薬剤が使えるものの、果樹類には幼虫用のスプレーと、成虫にカビを発生させ、長期的に減らす生物農薬しかなく、即効性のある化学農薬がないのが現状だ。弘岡研究員は「河内長野まで来ており、いつ入ってもおかしくない。大阪で発生している限り、水際対策は続けないといけない」と語る。
花見スポットでも警戒する。紀三井寺のさくらを守る会の田中尚会長は「樹木医から『この虫はこれから問題になる』と聞き、埼玉に住む会員からも被害を耳にした。水やりをする際に注意し守ります」と力を込める。
ただ、情報の浸透は現段階で十分とは言えず、紀の川市桃山町でモモ農園を営む男性は「聞いたことないです」。数多くのサクラを抱える和歌山城を管理する和歌山市和歌山城整備企画課は「他の虫についての注意は県からあったが、このカミキリについてはまだ聞いていない」と話す。
幼虫が生息する木にはうどん状のフラス(木くずと糞の混合物)があり、県自然環境室は「フラスがあると幼虫がいる可能性が高い。類するものでも見つけたら連絡して」と呼びかける。県立自然博物館の松野茂富学芸員は「公園などサクラの密集地はこの虫にとって楽園で、どこでも繁殖する危険がある。専門家に限らず、みんなで身近な所に目を光らせることが必要」と強調している。
写真=クビアカツヤカミキリのオス(左)とメス
(ニュース和歌山/2018年6月23日更新)