東京、兵庫に並び、国内皮革産業三大産地の一つに数えられる和歌山。この産業の一角を担う和歌山市堀止西のカバン職人、藤井康守さん(52)と、海南市の伝統産業で紀州漆器の伝統工芸士、林克彦さん(56)が手を組み、新ブランド「いろは」を立ち上げた。財布やキーケースなどの革製品に漆塗りのパーツをはめ込んだ自信作で、藤井さんは「いずれも使い込めば〝味〟が出てきて、愛着が湧いてくる。長く使ってもらい、新たなファン獲得につなげたい」と意気込む。
カバン職人と漆芸家が協力〜経年変化楽しむ新商品
江戸時代に始まり、明治以降は軍靴の製造を中心に栄えてきた和歌山の皮革産業。最盛期はエナメル革で国内生産高の7割を占め、近年は「きのくにレザー」としてブランド化を進めている。
藤井さんは4年前、県外のカバンメーカーから「漆を塗った革はないか」と相談を受けた。伝統工芸士として活躍する林さんに相談し、塗ることはできたものの、縫製の際に漆が割れやすく、価格が高くなるなど商品化に至らなかった。
一方の林さんは、2007年に国の伝統工芸士に認められ、ここ10年は和歌山の素材を使った新しい漆器の創作に挑んでいる。乾燥させたみかんの皮やひょうたんで漆器を作り、昨年、大阪の百貨店で開かれる物産展に出品する際、地元産品とのコラボレーションを考え、藤井さんに声をかけた。
両者の作品を組み合わせたデザインを手がけたのが、藤井さんの妻でファッションデザイナーの智紗子さん(43)。まず、財布、名刺ケース、キーケースをデザインし、康守さんが牛のヌメ革で製作、林さんが作っただ円形の漆塗りのパーツをワンポイントに付けた。
漆はよもぎ色、紅柿色、孔雀緑色など6色あり、表面がこすれるとツヤが増して下の層に塗った別の色が見えてくる。また、ヌメ革は使い込むほど柔らかくなり、日焼けや手の脂などでアメ色に変化する。
普段、エナメル革を使った華やかな作品を多く手がける智紗子さんだが、「漆は高価なイメージがあるので、普段から世代、性別問わず使ってもらえるよう考えました。シンプルなデザインは経年変化を楽しめ、それぞれの良さが生かされた」と目を細める。
林さんは「10回ほど塗り重ねますが、できるだけ薄く、均一に塗るのが難しかった。蒔絵を入れた作品も皮革と組み合わせてみたい」。康守さんは「漆と革、天然素材のかけあわせで温かみが感じられます」と仕上がりに満足する。
今年2月に販売を始め、女性や革製品の愛好家らに好評。智紗子さんは「漆に色のバリエーションをつけたのが良かった。次は和歌山の主力であるエナメル革に漆器を組み合わせたカバンも作り、和歌山で培われてきた熟練の手仕事を全国に発信する」と力を込める。
9月26日(水)~10月9日(火)に近鉄百貨店和歌山店で展示販売。藤井さん(073・460・1302)。
写真上=革製品を手がける藤井さん夫妻/同下=丁寧に漆を塗る林さん
(ニュース和歌山/2018年9月8日更新)