クリスマスイブ、サンタクロースとトナカイにふんして近所の小学生にプレゼントを贈り続ける夫婦がいる。和歌山市梅原でデザイン工房「つくりん房」を開く中畑康代さん(59)と定(さだむ)さん(59)。子どもの驚く姿と笑顔がうれしく、毎年続けるうちに17年、最近は子どもが成人し、逆にプレゼントを贈られることも出てきた。2人は「自分もいつかサンタをしてみたいと思う子が増えてくれたら」と望んでいる。
ご近所サンタ続け17年〜和歌山市 中畑さん夫婦
パームシティ近く、1980年代に開けた住宅地。中畑さん夫婦は2000年、ここに自宅を兼ね「つくりん房」を構えた。2人の陶芸作品が並ぶオープンな雰囲気に近所の子どもが出入りし始め、一緒に遊ぶように。康代さんはゴム飛びなど昔遊びを教え、ドッジボールにもまじった。「やっちゃん」の愛称で子どもに溶け込んだ。
そんな中畑さん夫婦の頭にはその数年前のイブの記憶があった。食事中に突然サンタクロースがやって来たのだ。玄関に現れたサンタは、顔がヒゲで覆われ、だれか分からない。怖いのかうれしいのか分からないまま大騒ぎし、プレゼントをもらうと、サンタは「じゃあ」と去って行った。正体は後に分かったが、その楽しさが忘れられず、いつか真似したいと考えていた。
日々、家に集う子どもたちの姿に02年、「今やな」と思い立った。不審者と間違われぬよう、すぐ自分と気づく小学生10人を選び、夜に8軒の家を回った。鈴を響かせ近づきインターフォンを押すと、玄関横のガラス部分に身を寄せ、赤い服を中に見せる。「サンタや!」。家の中が騒然とし、走り回る音も。「メリークリスマス! サンタだよ」と子どもの名を呼び、正体を示す。それでも子どもは大興奮。定さんは「みんなだれか分かりながらもサンタと喜んでくれるのが楽しい」とほほ笑む。
翌年、定さんが着るトナカイの着ぐるみを康代さんが手作り。多い年は子ども19人、15軒を3時間かけて回った。メッセージを添え贈り物は毎年変える。「これほしいのなぜ分かったの?」との声に「普段からよく見てるからなあ」と康代さん。
昨年まで2人の子どもが来訪を受けた清水宣子さん(46)は「毎年、今か、今かと子どもは待っていました。『いつか自分たちもサンタをして恩返ししないとね』と話すことがあります」。
実際に成人し、プレゼントをくれる人も現れた。エドゥアルテ愛実さん(24)は「当時はサンタはいると信じていて、『サンタはやっちゃんやったの?』と衝撃でした」と笑う。「ある年、ふとサンタにサンタが来たら面白いとプレゼントを届けに行きました。ものすごく喜んでくれました」
中畑さん宅を最初に訪れたサンタの正体、芝久芳さん(67)、里美さん(61)夫婦は「知人が子どものためにサンタ姿で来てくれてうれしかった」ときっかけを明かす。「子どもの友人を中心に回り、現在は孫と自分の友人宅数軒を訪れるくらいですが、続けています。私は正体がばれないようにし、怖がられたこともあるけど、みんな喜んでくれる。中畑さんもやれるだけ続けてほしいですね」とにっこり。
最近は子どもが減り、友人ら大人を訪れる軒数が増えた。康代さんは「思春期を迎え、悩む時期に相談に来てくれる子もおり、今もつきあいがある。それは私たちにとって最高の贈り物」。隣近所が遠くなったと言われる平成のラストクリスマス、ふれあいを配るサンタの出番は今年ももうすぐ。
写真=サンタにふんする中畑康代さん(右)とトナカイ姿の定さん
(ニュース和歌山/2018年12月15日更新)