今後5年間の教育施策の方向を示す和歌山県教育振興基本計画が今年度立ち上げられました。「未来を拓くひとを育む和歌山」を将来像に、未来を拓く「知・徳・体」をバランスよく備えた人づくり、子供たちの成長を支えるコミュニティづくりなど5つの基本的方向を掲げています。少子高齢化時代、教育の世界では大学入試制度改革や新学習指導要領実施など変革が進む中、和歌山らしい教育をいかに実現するか。宮下和己(かつみ)和歌山県教育長に、髙垣善信ニュース和歌山主筆が聞きました。

 

子どもが活躍する10年後、20年後見据えて

髙垣主筆(以下、髙垣) 教育長に就任されて3年半。今年度立ち上げた教育振興基本計画では「未来を拓くひとを育む和歌山」を教育の将来像に掲げられました。計画に対する思いを教えてください。

宮下教育長(以下、宮下) 本県では、平成29年3月に今後10年の道しるべとなる長期総合計画が新たに策定されました。それを受けて、教育分野についてもより具体的に進めていくため、第3期となる教育振興基本計画を策定し、本年度からスタートしています。教育は、子どもたちが社会に出て活躍する10年後、20年後を見据えて取り組んでいかなければならないと考えています。そのため、今回の計画においても、その点を十分に意識し、まず、これからの5年間で取り組んでいかなければならないことを具体的に記載するようにしました。また、教育の分野は、子どもたちの教育だけでなく、生涯学習、スポーツ、文化遺産など、たいへん幅広く、県民の皆様一人一人に関わることばかりですので、それぞれの取組を着実に、そして必要なことはスピード感をもって進めていきたいと考えています。

 

知・徳・体備えた人づくり図る

髙垣 「知・徳・体」のバランスのよい人づくりもテーマですね。小・中学生対象の学力テスト、体力テストの結果も上向きになってきていますが、どういったことをしているのでしょうか。

宮下 確かな学力、豊かな心、健やかな体の「知・徳・体」を基盤とした人間としての総合力を子どもたちに身に付けさせることが、なにより大切だと考えています。そのためには、教育における基本的な〝不易〟の部分と、スピード感をもって時代に対応していく〝流行〟の部分とをそれぞれしっかりと押さえて取り組んでいく必要があります。そのような考えのもと、本県では、全ての小・中学校で「学力向上推進プラン」や「体力アッププラン」を作成し実践することや、本県独自の道徳教科書の活用など、様々な取組を行っています。

写真=体育の授業でボールを追う小学生

 

地域と保護者が学校運営に参画

髙垣 基本的方向の一つ「子供たちの成長を支えるコミュニティづくり」においてコミュニティ・スクールの導入を全国に率先して進められています。コミュニティ・スクールについて、その進捗と課題をお話願えますか。

宮下 平成29年度からの3年間で全ての公立学校に「きのくにコミュニティスクール」を導入するという目標を掲げ、現在、県立学校では100パーセント、小・中学校で約70パーセントが導入しています。これによって、地域住民、保護者等が一定の責任と権限をもって学校運営に参画するとともに、必要に応じて学校から地域・家庭等への要請を行うことで、学校と地域・家庭をつなぎ、学校のみならず地域・家庭が抱える様々な課題を解決していきたいと考えています。そのためには、大事なのはむしろ導入後のこれからであり、形骸化することのないように、学校や地域の将来を見据えたより内容のある取組にしていかなければならないと考えています。

写真=子どもたちの登校を見守る地域住民

 

きのくにICT教育始まる

髙垣 情報通信技術(ICT)の導入を進め、今年度から県内小中高6校でプログラミングなどの授業を始めました。どんな力を育てるのでしょうか。

宮下 技術革新が一層進展するこれからの社会を生き抜くために、子どもたちには、情報や情報技術を受け身で捉えるのではなく手段として活用していく「情報活用能力」が求められています。そのため、本県では、全国に先駆けて、コンピュータ等の情報手段の操作・活用の習得やプログラミング的思考の育成を体系的に行う「きのくにICT教育」に取り組んでいます。本年度は、モデル校として県内6校での取組でしたが、来年度は県内全ての小・中・高等学校に取組を広げます。

写真=プログラミングなどの授業を受ける小学生

 

「世界津波の日」サミット成功

髙垣 「世界津波の日」高校生サミットが今年は和歌山で開かれ、世界48カ国の高校生約400人が集まりました。サミットは成功裏に終わりましたが、どのような感想をお持ちですか。

宮下 「世界津波の日」高校生サミットは3回目を迎え、発祥の地和歌山での開催となりました。津波防災教育は、和歌山の教育の大きな柱の一つであるので、開催するからには、県内全ての高等学校が関わるようにしたいというのが私の考えでした。そういう意味では、本県の高校生はよく頑張ってくれましたし、得たものも大きいと思います。本県では、平成27年度から20の国と地域の高校生が参加する「アジア・オセアニア高校生フォーラム」を開催してきましたので、そのような取組の積み重ねが今回のサミットにもうまくつながったと感じています。今後も本県の高校生には、本県の教育が日本の防災教育のモデルと言われるぐらい強い気持ちをもって取り組んでいってほしいと思いますし、なにより、地域防災の担い手の中心となって活躍してほしいと願っています。

写真=「稲むらの火」発祥の地・和歌山で開催された「世界津波の日」高校生サミット。世界48カ国約400人の高校生が集い、災害時、自分たちに何ができるかを議論し、学びあった。(2018年10月31日・11月1日)

 

髙垣 宮下教育長は、基本計画の将来像実現のため「和」がキーワードとかねてからおっしゃっています。その思いを最後にお聞かせください。

宮下 和歌山県民歌の歌詞には、「人の和と文化を添えて」というフレーズがあります。和歌山の「和」は協力し合う「和」、調和の「和」、たし算の「和」です。このように、和歌山の教育は「和」の力で進めていきたいと考えています。めざす将来像の実現のため、教育関係者はもとより、全ての人の力が結集したとき、本県の教育はよりよいものになると確信しています。学校、地域、家庭など、全ての方々の力を合わせて和歌山の教育に取り組んでいく。それが私の思いです。

髙垣 ありがとうございました。

(ニュース和歌山/2018年12月22日更新)